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昼食のひと時

生徒達と講師陣の一幕

ピェスカーネ学院に昼食の刻を告げる鐘の音が響き渡る。


先程、『優等生』といわれていたソフィア・アラハーナは教科書やノートをまとめ終わり、パタンと閉じる。そして、一息つくと美しい所作で立ち上がり、1人で食堂へと歩き出す。そんな彼女を見てパタパタと追いかける1人の女子生徒。


「ソフィ〜、待ってよ〜!」


追いかける彼女の名はスカーレット・リンクス。カラカルの獣人である。彼女に呼び止められて、チラリと振り返り立ち止まるソフィア。


「……レティ、そこにいたのね。今日は人が多すぎてわからなかったの。さぁ、混む前に早く行きましょ」


顔にこそあまり出ていないものの、授業中よりも明るい声音でほんのりと微笑んでいる。お互いを愛称で呼ぶくらいには付き合いの長い2人は並んで食堂へと歩き出す。


そんな2人の様子を階段状の講堂の高い位置から見ていたカオル。そんな彼を小突く者がいた。


「よーぉ、カオル〜。やっぱスカーレットちゃん可愛いよなぁ……」


彼の親友、ピューマのペティス・ボラールはにやけながらカオルに絡む。


「それにしたってあのソフィアと仲良いのはマージで不思議だぜ。ん?さてはお前ソフィアを……??」


彼は、心底不思議だといった顔でカオルとソフィアを交互に見る。


「……ったく煩いな、ペティス。混む前に早く行かないと今日限定ランチにありつけないぞ」


なんとも言えない表情をしつつ誤魔化すカオル。そんな友人を見てペティスは呟く。


「いいじゃないか、今だけだぜ?

 異種族恋愛ができるのは」


先程のニヤニヤとした笑いとは打って変わって、少し寂しげである。


「確かにな、異種族が争わずに平和に暮らせている場所なんてそう多くない。だからこそその秘訣を学びたいんだが……」


目を伏せて呟くカオル。ペティスは彼の次の言葉をワクワクしながら待っていた。


「正直、そういった学びよりもこの学生生活が楽しくて仕方ないんだよな」


ククッと心底楽しそうに笑うカオルを見てポカンと空いた口が塞がらないペティス。だが、親友の笑顔を見てケラケラと笑い出す。


「あぁ、ホントにな」


「「(ずっとこの日々が続けばいいのに)」」


もう卒業まで1年を切った。この学院を卒業すれば、元の地位、元の日々が戻ってくる。そう思うと寂しさをお互い感じながら、2人は食堂へと歩き出した。




―――……食堂にて


「こんにちは、さっき当てられてたね」


初等部一年生、テンのソラ・シグレは声をかけられてビクッと驚く。


「こ、こんにちは」


声をかけてきたのは同じく初等部一年生のスタンダードダックスフンドの女子生徒、ドルチェ・リーテン。


「私はドルチェ!ここループスの城下町が地元だよ!これからよろしく!君は?」


尻尾をブンブンと振りながら元気いっぱいに自己紹介をされ、ニコニコと笑顔を向けられる。ソラもハッと我に帰ると自己紹介を始める。


「ぼくはソラ。マステーラ領からここに来たよ。これからよろしくね」


少し照れながらドルチェに自身の名を告げる。期待の眼差しを向けながら彼女ははソラを見つめて言う。


「マステーラ領!私まだこの領から出たことないの!どんなところか教えてくれる?」


好奇心旺盛な彼女は飛びつく勢いで彼に矢継ぎ早に質問を重ねる。


「え、えっと……もちろん教えるよ。代わりにぼくにもこのループス領を教えてもらえるかな?」


勢いに押されつつも、ソラはにこやかに答えた。その答えにドルチェは瞳を輝かせた。


「やったぁ!私もたくさんループス領のこと教えてあげる!だから休暇の時はたくさんお出かけしよ!」


流れるように遊ぶ約束をしようとする彼女に、ソラは驚きつつ思わず笑ってしまった。


「ふふ、ドルチェさんは明るい人だね」


ドルチェはソラの笑顔にさらに喜ぶ。尻尾はちぎれんばかりにブンブンと振っている。


「ソラ君やっと笑った!もっと笑お?」


人懐っこい笑顔を振り撒くドルチェ。その笑顔に人が集まってくる。


「わぁ、すごく楽しそう!」

「あの子かわいい……!」


あまり目立つことに慣れていないソラは少したじろぐが、ドルチェが彼を捉えて離さない。


「どこにいくのー?新しい友達つくろ!」


逃げきれなくなったソラは営業スマイルに切り替わる。しかし彼はまだ知らない、これから9年間、ずっと彼女に振り回されることを……。


―――食堂の一角


「……先程は失礼しました」

「こちらも皮肉を言ってしまい申し訳ありません」


納得いっていない、というのを顔に全面に出しながらミオはカザンに謝罪していた。かくいうカザンは反省のはの字もない態度で謝罪を返す。険悪なムードは消えず、相変わらずナトとルー、ヴェラによって防音障壁が張られている。イオリもまた居心地悪そうに身じろぎをしており、側から見れば物々しい会議に見えることだろう。


「まぁまぁ、そんなに怖い顔をしてないで久々の学食を楽しみませんか?ここは毒殺の心配も襲撃の心配もない安全な地ですからね!私は久々にここの非常に美味な野いちごのタルトが食べたくて仕方がないんですよ♪」


上機嫌で机に並ぶ学食をながめる渦中のシュウ。彼だけはなんら気にすることなく食事を始めていた。


「あ、あのぅ……シュウ?君のことを皮肉ったカザンさんのことを咎めないの……?」


かつてこのピェスカーネ学院で同級生として過ごしたイオリは敬称も忘れ思わず聞いた。


「うーん、カザンさんは確かに私よりずっと魔力保有量が多いし、魔力の操作も精密だ。だから彼は私如きが偉そうに努力を語ったことが気に入らないんでしょう」


ピク、とカザンの耳が動いた。先程のミオの指摘や挑発には一切顔色も何も変えなかった彼の目の色が変わった。


「……え?ふふ、あなたはあまりそれを見せたがらないみたいですけどね。何故か知りませんけど」


飄々と答えるシュウの黄金色の瞳は愉しんでいる。カザンは恐ろしく冷たい目でシュウを睨む。ミオはもはや怯えている。その様子を見てヴェラが小刻みに震え出す。


「あぁもう!どうしてあなたたちは仲良くできないわけ?オオカミなんだから少しは社会性を見せなさいよ!」


口喧嘩をしていた両者はもちろん、怯えていたミオはさらに萎縮する。そんな3人とは異なり、イオリはヴェラを静かに見つめている。ナトは変わらず吐息をついて目を逸らす。ガルルル!机についた腕を獣化して怒っているヴェラにルーは苦笑した後、穏やかに嗜めた。


「ヴェラ、落ち着きなさい。気持ちが昂り過ぎて獣化しているわよ、それはあなたの悪い癖ね」


ハッと無意識にしていた腕の獣化を解いて目を伏せる。ルーは微笑んで言葉を続ける。


「怒ったところで問題は解決しないわ。それにナツオイ家とアキバレ家の衝突なんて昔からよ?あなた達はまだ仲がいい方だわ、フフフ」


遠い目で過去を振り返るルー。神妙な空気が場に流れる。


「……ヴェラ様、つまりはそこまで気にせずとも問題ありません。本当に関係が冷え込んでいるわけではございませんから」


ずっと黙っていたナトが口を開いた。ハッと我に帰る面々。この状況を打開するためか、表情に乏しい彼が穏やかに苦笑して言った。


「それにそろそろ昼食を食べませんか」


狼達はハッと時計を見ればもう半刻は過ぎている。


「リュコスの野菜、ぜひ食べてください!」


途端に饒舌になるイオリ。そんな彼を見てクスッと笑うヴェラを見て、彼は安心したように微笑むのであった。

食えない男ばかりです。


面白い、続きが読みたいと思った方はブックマーク、高評価etc…よろしくお願いします。


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