魔法と想像力
久々の投稿となりました。
日々が忙しく遅筆のため投稿頻度がマチマチとなってしまい、あまり書けていないことをお詫び申し上げます。
今回は様々な魔法を学ぶピェスカーネ学院からの一幕となります。
―――ピェスカーネ学院、大講堂
非常に多様な肉食獣達がその場にいた。ネコも、イヌも、キツネやオオカミ、イタチやハイエナなどありとあらゆる種族がいがみ合う事なく教卓を見つめている。荘厳なる巨大な極彩色のステンドグラスが生徒達を美しく穏やかに照らしている。
他種族との交流が盛んであるのは……西のベスティア、東のピェスカーネと言われるカルニボアの優秀なる名門校だからである。貴族や良家の子息が通う男子校のベスティア学院とは異なり、家柄不問かつ共学で学ぶことが出来る為、他領からも入学者が多い。
それ故に、ループス城下町では他領の子供達を見ても何ら不思議には思わず、微笑んで見守る領民が多いのだ。生徒達もまた、ループス領での青春を振り返る頃には自ずとループス領との結び付きが強くなっている。
「さぁ、諸君!今日は待ちに待った特別授業だ!
特別講師であるループス四大貴族様、そしてループス次期領主ヴェラ様と領主夫人ルー様がいらっしゃっている。今日授業を担当するのはこの私マシュー・ライゼルと、アリス・ルリユール女史だ。私達教師の名前もしっかり覚えるように」
タテガミオオカミの色男の教授が声高らかに生徒達の視線を集める。少々伸びた後ろ髪は無造作に一括りにまとめられており、頬にかかる髪が大変色っぽいと女子生徒の間で話題である。集められた生徒達は新入生である初等部一年生である6歳〜7歳と高等部三年生である15〜16歳である。ピェスカーネ学院初等部6年、中等部3年、高等部3年の12年制の一貫教育校である。
「アリス・ルリユールです。普段は魔法薬草学を教えています。本日の魔法基礎学の講師としてもよろしくお願いしますね」
アリスが小さく微笑むと少し緊張していた入学生達の緊張がほぐれ、笑顔が浮かぶ。
「さぁ、小さなそこの君。私たちが普段使っている魔法とはまず何か知っているかね?」
マシューが長い教鞭を最前列に並んでいたイタチの子に向ける。彼は突然の質問に一瞬驚きながらも、一生懸命答える。
「はい……!ま、魔法とは、自分で持っている魔力と杖で対象に対して呪文を使うことです……!」
緊張で膝が笑ってしまっているその子を見つめながらマシューはニンマリと笑う。そんな様子の上司を見ながらアリスはジト目で呆れを示す。
「正解だ。よく勉強しているな。さて、主席のソフィア。君に問おう、魔法と魔術の違いは?」
ソフィア、と呼ばれた女子生徒は見目麗しい豹である。
「はい、魔法は愛や純粋なる思い、願いを叶えるものです。対して魔術とは魔法の理論を理解し、攻撃や防御などに応用したものを指します。加えて、古代魔術は魔術というよりも人の思いを強く反映したものが多く魔法に近い為、攻撃魔法として使用される場合は対処法が殆ど存在せず大変危険です」
すらすらと本を読むように答える彼女を見て鼻を鳴らすマシュー。そしてニヤニヤと笑いながら言う。
「大変優秀な答え感謝する。つまり、よく私達が呼んでいる『攻撃魔法』も、正しく呼べば『攻撃魔術』という訳だ。魔法は強い思いによって展開される為、解除することが魔術に比べ非常に難しい。呪い……と言った類も魔法に分類されるのはこの為だ」
意地悪な訂正にほんの少しムッとするソフィアであったがすぐにハイ、と無機質な返事をするとノートを書き連ねる作業に戻る。
「魔法を使う時の呪文は簡単だ、願いを口にしながら魔力を乗せ、杖を振ればいい。決まった呪文は殆どない。生活魔法が簡単にできるのはこのせいだ。言葉に魔法を乗せれば出来るからな、慣れてくれば無詠唱かつ同時に魔法を展開することも出来るようになる……こーんな感じにな!『起きろ、授業中だ!』」
マシューがそう言うと、居眠りしていた高等部三年生へと紙屑が飛んでいき頭にコツンと命中。途端に生徒の眠たげな目が一気に覚醒する。それと同時に辺りから吹き出す声と周囲のクスクスと笑う肩が目立つようになった。そんな様子に居眠りをしていた生徒は頭をポリポリとかいて赤面しつつも苦笑する。
「こうやって相手が油断していたり、自分よりも魔力保有量が少ない場合はこちらからの干渉が成功する……逆に言えば、相手が膨大な魔力量を持っていたり、しっかりと警戒され、魔法防御されていると魔法は基本的に失敗することが多い」
アリスを魔法で持ち上げようとしたマシューがお手上げのポーズで不可能を証明する。
「あと、アレだ。想像力」
そう言うと、白い見たこともない美しい花がふんだんに使われた花冠がアリスの頭上に現れた。
「今のは、頭の中で強く願った。『白の花冠よ、アリスの上に現れよ』とね」
アリスがクスッと笑うと指を鳴らした。マシューがあ、と呟くと同時に頭上に黄色のユリの花冠が出現する。
「……ンンッ、アリス女史も実演してくれたな。私はあまり花に詳しくないから特定の花の冠を作ることができなかったが、アリス女史のように特定の種を詳細に想像できるというのは非常に高い技術だ」
意外と気に入ったのか、彼は頭に花冠を載せたまま授業を続けるようだ。
「つまり、私達にとって知識は力だ」
マシューがパチン、と指を鳴らすと教卓の上に山積みの本が降ってきた。
「これが何か高等部3年なら分かるな?」
大きく頷く彼らは硬い表情をしている。
「そうさ、今までの使ってきた教科書、および今年使用する教科書だ。これらに書いてある知識を持つことは諸君が思っているほど無駄なことばかりではない、魔法歴史学から魔法薬学、身体構造学に古代獣歴史学、錬金術まで幅広い分野の教科書があっただろう?これは基礎だ。この基礎が無ければ大学部では専門的な学問を学ぶスタートにさえ立てない」
対する新入生達は自身の身長と同じほど積み上がっている本の量を見て、大抵の者達は驚いている。数名は目を輝かせてその好奇心を爆発させている。
「新入生諸君、君達はこれからこれだけの書物を使って学んでいくんだ。ここに入学した時点で君達は充分優秀だ。でも、それで満足してはいけないよ。これから様々なことを学ぶ為に入ったんだから。大丈夫、我ら教師は優しく、時に厳しく君達を導こう」
そう言った瞬間、綺麗な桜の花弁が舞い散る。新入生は可愛らしい歓声を上げ、高等部3年生は息をするように魔法を使うその魔力量と技術の高さに息を呑む。
「さぁ、私の前座は終わりだ。今日の素晴らしい講師達に教卓を譲ろう」
マシューは華麗に一礼をすると静かに講堂の後方へと引っ込んだ。
マシューさんことタテガミオオカミってオオカミという名前がついてる割にはキツネに近い仲間なんですよね。スタイルがいい美脚肉食獣です。
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