ループス城の魔法士
魔法士達集合です!
―――ループス城、ロボの執務室
「……もうそんな時期か、今年はルーが行くことになっているからな。私か?お前は私譲りの魔法属性なのだからお前が行きなさい」
ヴェラが魔法の実演教室の話をすると、ロボはやれやれと言った様子で書類を見ながらヴェラに言った。
「ルーが炎、私とお前が光、私達両親から膨大な魔力を譲り受けただけはある、お前は炎も人並み以上に使えるからな。ルーが楽しみにしているんだ、久々に魔法が使えて楽しいのだろう。……そのうち夫婦で手合わせとか言い出さないか心配なくらいルーは魔法が好きだし、私も気を抜くとやられかねないくらいに強いからな」
忙しなく書類に目を通していたロボが遠い目をする。彼の妻であり、ヴェラの母であるルー・A・ループスは鮮やかな炎魔法が得意なナツオイ家の出身である。
「あとな……行きたいのは山々だが、私はフェリシア領との会談に向けていろいろと準備がな?」
ヒラヒラと書状をヴェラに見せると再び書状作成に目を落とす。ヴェラは多忙な父の姿を見て吐息をつく。
「わかりましたわ、父上。母上に話してきます」
そういうとヴェラはロボの執務室を後にした。
―――ループス城、裏庭
「『火竜よ、力を貸せ。そして天へ昇華せよ』」
杖を持った母、ルーがその美しい声で呪文を唱えていた。透き通ったその声はよく通る。朗々と強大な呪文を詠みあげていくその様は普段の母の姿でも、妻の姿でもなく一人の魔法士であった。巨大な火柱によって陽炎が揺らめく。その向こうの母と目が合った。ヴェラは母が業火を見つめて恍惚とした表情を浮かべていたのを見逃さなかった。
「あら、ヴェラ……久々に魔法を披露する機会だから鈍っていないか確認していたのよ」
父は獣化を主体とした近接戦法を好み、獣化と同時に魔法を使いこなすが、母ルーも負けてはいない。炎魔法を鮮やかに瞬時に広範囲に展開するのである。制御の効きにくい魔法だからこれほど鮮やかに使うには恐ろしいほど高等な技術が必要だということを、魔法の知識を持つヴェラだからこそ理解できる。
「相変わらず母上の魔法はすごいわ……」
自身の親とはいえ、ヴェラは思わず感嘆の声を漏らす。
「光魔法が使えるあなたとロボの方がすごいわ、あの魔法は遺伝より天性の才能みたいなものだから」
嬉しそうに笑いながらルーはヴェラに杖を握らせる。
「あなたもたまには炎魔法も使って?」
ヴェラはルーの杖をそっと持つ。
「『炎よ、灯れ』」
杖先に少し大きめな灯火が出現した。最も初歩的な炎魔法である。自身の杖でない為、ヴェラの表情は非常に硬い。
「あらあら……私の杖だから遠慮してるのね?それは申し訳ないことをさせてしまったわね」
流れる魔力があまりに異なると杖は非常に脆くなる。血縁者でもない限り、杖の貸し借りは行えない。家族であろうと扱える魔法の種類が違えば簡単に破損するのだ。
ルーが少し残念そうに呟く。ヴェラは自分の母でありながら、魔法に関しては本当に目を爛々と輝かせながら展開する様を見て、根っからの勝負好きということを嫌でも感じさせられるのであった。
「じゃ、じゃあ私はナトに声をかけてこなくちゃ!」
ヴェラはルーの熱視線を背に浴びながらそそくさと退散した。
―――ループス城、車庫
「……私が雷魔法を?」
魔導車を磨いていたナトがヴェラの話を聞いて目を丸くする。ヴェラは手を合わせて懇願の意を見せる。
「いつもお願いしている方がそろそろ引退すると決めてしまって……、この城の中で優れた雷魔法を展開できるのはあなたしかいないの!」
ヴェラの懇願する様を見て、自身の袖に隠してある杖をチラッと見るナト。やれやれ……と力なく首を振ると吐息をついた。
「ヴェラ様、私はあくまで一介の使用人。フォルテなどと異なり、特殊な訓練を受けているわけでも何でもありません。はっきり言って独学にも等しい。そんな拙劣な魔法を上質な教育現場でお見せするのはいかがなものかと」
あくまで真っ当な理由で辞退の意を伝えるものの、ヴェラが決して折れるはずが無いのは常々フォルテから話を聞いている彼は知っている。
「そんなぁ……ナト、あなたは一流よ?雷魔法と消音魔法の同時展開なんて並の人では決して出来ない。それに魔導車の運転だって多くの魔力を使う。やはりあなたは……っ?どうしたの?」
ナトが下を向いて熟考している様子を、ヴェラは勘違いしたらしい、慌てた様子で再び声をかける。
「だ、大丈夫?!何かあった?!」
慌てふためくヴェラの様子が面白くて少しの間放っておくと、ようやくと黙考中だと気づいた。
「驚くじゃない、ナト!」
ヴェラが頬を膨らませながらナトに食ってかかる。その様子を見たナトが薄く苦笑を浮かべて答えた。
「こんな私をベタ褒めしたって何も出ません。そもそも何故あなたがそれほど私の情報を握っているのやら……まさかフォルテから聞いているのですか?」
聞かれたヴェラは首を振る。そしてニヤッと笑う。
「いいえ?私が観察した限りそうよ。あとあなたは子供達からの信頼も厚いし、きっと学院でも人気者ね」
観察だけで殆ど自身の力を見抜かれたことにナトは少々驚きつつ、もう一度深い溜息をついた。
「ハァ……、あなたは人々の観察が得意なのですね。確かに私は城下町の子供達とは親交を深めていますが……本当に私でよろしいんですか?」
ナトは観念した様子で、念押しするようにに問う。ヴェラは彼の言葉を聞いてニコニコと笑って言う。
「絶対いいわ!そうと決まれば後は貴族の人々だけだわ!ありがとう、ナト!」
小躍りしそうな勢いで走り去るその背をナトは微笑しながら見送るのだった。
ヴェラの母ルーの描写はだいぶ久しぶりですが、これから詳しく描いていこうと思います♪
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