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犬も歩けば棒に当たる

本編続きます。

柴犬は狼に1番近い犬種……。

―――ループス城下町、八百屋前……


「先日は、大変申し訳ありませんでした……!」


そうしっかりとした声と共に深々と頭を下げるのは騎士団の正装に身を包んだイツキである。隣には責任者として彼女もまたループス家の正装をしたヴェラの姿がある。先日とはうってかわって憑き物が落ちたかのように凛々しくスッキリとした顔をしている彼と、隣に立つヴェラをを見て、住民達は何事かと目を丸くする。謝られたのは八百屋の主人レグメ。少し驚いた顔をしつつふむ、と考え込む仕草をして少し硬い表情を浮かべた。


「君がこの前の騒動の犯人かい?」


ナトの迅速な対応により被害は最小限に留まったものの、対応と同時に被害の確認も済ませていた彼が、最も大きな被害を受けた店として挙げたのがこの八百屋。普段から穏やかな店主レグメは基本的に怒らない。とても気の良い、素晴らしい人格者として知られている店主である。ヴェラはそれをよく知っているので二人の様子を黙って見守る。


「はい、私の身勝手極まりない行いでした」


頭を下げたままイツキは言葉を続けた。ヴェラは一切のフォローは行わない。彼が自身の言葉で全て謝る、と言ってきた為、監督者として着いてきたのである。レグメは先日からの彼の表情の変化、真剣な謝罪の様子に小さく頷くと苦笑した。


「一体何があったのかは知らないけれども、他人に迷惑をかけてはいけない。けれどきっと解決したんだね、表情が随分と変わった。もう決してこんなことしてはダメだからね、わかったかい?」


レグメの寛容な対応にたじろぐイツキ。ヴェラはその様子を黙って見守っていたがほんの数日の変化に感心する。不安げなイツキの様子を見てレグメは付け加える。


「君の不始末ならナトさんが片付けてくれたよ、彼にもしっかり謝罪と感謝するようにね」


ニッコリと笑うとイツキの表情が再び明るくなった。先日の暗く大人びた表情とはうってかわって、まだ幼さを残すその表情を見て、住民達の頬も綻ぶ。ヴェラもまた小さく微笑む。


「はい……!」


問題が解決したことがわかるとワラワラと集まっていた人だかりは自然と少なくなっていく。代わりにヴェラの元へ住民達が集まってくる。


「ヴェラ様〜、うちの商品見てってよ!今ならサービスしちゃうよ?」


色とりどりの宝石が散りばめられた髪飾りを持った中年女性がニコニコとしながら寄ってきた。


「ありがとう、モルガさん。次のお休みに伺うわ!」


次に声をかけてきたのは、淑やかそうな呉服屋の男性店員の片手には美しいドレス。


「私のとこも見ていっておくれ、ヴェラ嬢ちゃん」

「ガイルさん!いつもドレスありがとうね!」


もちろんヴェラは笑顔で対応する。


「これ食べていきなよ、ヴェラさま!」


たっぷりとチーズの乗ったピザを差し示す若い店主。


「とっても美味しそう!ゴーダさん、今は気持ちだけ頂くわね!」


あっという間に取り囲まれるヴェラを見て、イツキは目を丸くする。これほどまでに愛されているのか、と。


「みんなありがとう、今日はまだ仕事があるの!次のお休みにまた周るわ!」


ヴェラは笑顔で住民達に呼びかける。その呼びかけに住民達もまた笑顔で応じ、各々の店へ戻っていく。


「さぁ、帰って稽古よイツキ君」


ヴェラはそう告げるとポカンとしているイツキに少し意地悪な笑みを浮かべて先に歩き出す。我に帰ったイツキも急いで後を追う。


「ヴェラ様って……すごいんですね」


ボソリとイツキが呟くと、ヴェラは目を丸くした後クスクスと笑った。


「な……っ、何がおかしいんですか」


すっかり敬語となっているイツキの様子を見て、ヴェラは彼本来の姿は真面目で実直な青年なのだ、と確認する。


「すごくなんてないわ。この地でループス領主ロボの娘、ヴェラとして生きてきた……ただそれだけ」


少し俯いたものの、すぐに顔を上げてイツキに微笑む。


「父はとっても偉大だわ。私もその務めが果たせるようにならなきゃね」


イツキは腰の愛刀を撫でた。


「……僕も、祖父が遺したこの刀の持ち主に相応しくなれるように、稽古に励みます」


そう静かに宣言するとイツキは小さく微笑んだ。


「イツキ君、君はもうあの屋敷に戻らなくていい、と正式に決まったわ。ブレン団長が直談判に行ってくれたの」


クスッと笑いながらヴェラが告げると、イツキは目を見開いて驚く。


「どうして……そこまで団長がしてくださるんですか?」


ヴェラは少し考えてゆっくりと答えた。


「きっと、親友の忘形見とでも思っているんじゃないかしら?あなたを教えることができるのを楽しみにしているのよ?」


ヴェラの言葉にイツキは少し恥ずかしそうに目を伏せる。その様子をヴェラは微笑ましく思うと同時に、まだ彼はほんの16歳の少年なのだと見つめる。


「僕、団長にもしっかりと謝罪して、それから毎日稽古をします。カルラさんに早く追いつけるように……ブレン団長をいつか超えられるように!」


あれほど荒んでいたというのに、ここまで何が彼を変えたのだろう、と思いつつヴェラはその少年らしい抱負に大きく頷く。


「カルラは強いわよ?ちょっと脳筋だけど……。その意気よ、イツキ君」


ヴェラは1人思いに耽る。悪友カルラはきっと初めての弟弟子に大喜びするのだろう、そしてビシバシと指導するだろう。彼は理不尽で脳筋な姉弟子に耐えられるのだろうか、と。そんな2人を厳しくも優しくブレン団長は指導していくのか、と。


「カルラによろしくね」


そんなヴェラの言葉にイツキは微苦笑で応えるのだった。

面白い、続きが読みたいと思った方は感想ブックマークetc…よろしくお願いします。

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