白狼と柴犬
久々の投稿となります。
ポケモンSVが楽しすぎて……。
ヴェラとイツキのお話。
―――ループス城、地下牢
「こんな所にお嬢様が来るなんて、俺をどうするつもりだ?」
ヴェラはフォルテさえも連れずに、1人イツキの牢の前に向かい合っていた。
「あなたに話があって来たのよ」
ヴェラはイツキを見つめながら言った。
「……同情か?憐憫か?そんなことされたところで何にもなりゃしない」
ヴェラは自身の想像以上に捻くれたイツキとの対話に半ば辟易していた。しかし、自分が責任を負う、と言った以上彼との対話と説得を成功させなければ意味がない。
「違うわ、それで解決するなんて思えない」
少し目を伏せてヴェラは言った。そこに追撃するかのようにイツキが嘲笑う。
「あぁ、ホント頭お嬢様なんだな、アンタ。俺は騎士団を襲撃して、街を荒らした犯罪者だ。禁錮にでも処刑にでもすればいいじゃないか」
父やフォルテに言われた通り、ヴェラの身分とその育ちを毛嫌いしていることだけはよくわかる。
ヴェラの伏せられていた目が彼に向いた。
「えぇ、その通りよ。あなたは多大なる迷惑をかけてくれたわ。あと、あなたの背景まで随分と調べがついたわ」
ヴェラの言葉にグッと頭を引くイツキ。少し目を伏せた後短く息を吸うと一気に捲し立てた。
「あぁ、そうかよ……!俺がキサラギ家の正統な跡継だとしても!両親は死んだし!祖父だって昔の内戦で死んだ!もう俺の味方なんていないんだよ!」
「お前にはわからないだろうな?!正統な跡継と言うだけで嫉妬され、嫌がらせを受けるってことなんて!お前なんていなければいいと存在を否定されることだって……!そんなこと一度たりともないだろうな!」
ハァハァと息を切らしながらイツキはヴェラに怒鳴る。ヴェラはそれらの言葉を全て受け止めて、静かに一つ深呼吸をした。
「昨日、あなたと剣を交わしたカルラ……彼女も両親を子供の頃に亡くしているわ」
何かを言い返すつもりでいたイツキが短く息を呑む。
「私は、何度か他領……グリズールからの刺客を差し向けられることもあったわ」
ヴェラは淡々と自身の過去を告げる。
「あなたのことを否定するつもりはないわ。でも、あなたが思うよりずっと皆も何かしらを抱えて生きている、という事は覚えていて欲しい」
ヴェラはイツキの目を射抜くように視線を向けた。
「あなたは、きっと強い人よ。それほどの仕打ちを受けて尚、死ではなく生きることを選んだ。足掻くことを選んだんだから。……あなたよりほんの少し長く生きているだけの私に言われるのはきっと癪でしょうけど、生きていれば案外なんとかなるものよ」
ヴェラは格子越しに詰め寄る。
「足掻くことを選んだのなら、その手で私達の手を取って欲しい。あなたに無いものを私達は与えられる、使える手はなんだって使う、というのも一つの生き方だから」
イツキは少し目を泳がせた後、壁に立てかけてある自身の愛刀である大太刀を見つめた。
「もう、あの分家に帰る必要はない。あなたにはブレン団長……あなたの祖父の親友から稽古をつけたいと直々に申請があったの。あなたが示したその力は決して無駄ではなかったということよ」
ハッとした横顔を見る同時に、ヴェラはクスッと笑ってしまった。その声を聞き、カッと羞恥心で赤くなるイツキ。
「大丈夫、あなたはもっと年相応に振る舞えばいい」
あなたはまだたった16歳なのだから、とヴェラは心の中で呟く。
「……なぁ、ヴェラ様」
初めて敬称を使い、自身の名を呼ばれてヴェラはハッと顔を上げる。
「あなたは、ループス家の跡継になったこと、後悔したこととか無いのかよ」
ヴェラは少し考えた後に答えた。
「全く無い……と言ったら嘘になるわ。毎日毎日毎日勉強漬けに訓練漬け、加えて他の教養まで身に付けなければならないから。でも、私を愛してくれたループスの皆を守る為ならば私も強く、賢くならなければならないから」
イツキは年相応に心底楽しそうに笑った。
「フッ……アハハ!マジか、ホントにヴェラ様って根っからの善人なんだな。噂には聞いていたけどここまでとは……、意地張ってる俺が馬鹿みたいじゃないか」
心からの笑いだったのだろう、イツキはしばらく笑った後、急に改まって正座をしてヴェラに向かい直った。
「本当に、あなたを信じていいのか」
真剣な瞳でヴェラに問うイツキ。彼の瞳は小さく揺れていた。恐怖と不信感でいっぱいの心を抑えながら。
「えぇ、信じてほしい。少しずつでいいから」
ヴェラもまた真剣な目でイツキに語った。
「……少しずつ、か」
顔を逸らし、聞こえるか聞こえないかという小さな声で彼は呟いた。そんな彼の様子を見たヴェラはニッコリと笑った。
「じゃあ、まずは迷惑をかけた人達へ謝罪して回るわよ」
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