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リンゴのコンポート

イツキの逃亡劇のその後です。


リンゴって美味しいですよね。

―――夕刻、ループス城内第二調理場


「さてと」


ナトはゴト、と大量のリンゴが入った木箱を置く。

おまけのように紙袋に入った数個のレモンも隣に。

そのリンゴはどれも皆傷だらけである……。


「久々に、作りますか」


張り切った声の独り言がポツリと響く。

シャリシャリとリンゴの皮を剥き、慣れた手つきで丁寧に六等分していく。鍋には、砂糖と水、レモン汁を入れてあり、煮込んで出来上がるのはリンゴのコンポート。最後の一欠片はナトの口へ放り込まれる。シャクッと良い音を立てて程よい嚙み応えと口に広がるすっきりとした味わいを楽しむ。満足げな笑みが自然と溢れると彼は日中のアクシデントを思い出すのだった……。


―――カルラが去った後


「あぁ……一級品だったのに」


尻尾の先までションボリとして一つずつ転がるリンゴを拾う八百屋の店主。そんな彼に転がったリンゴを拾い上げたナトが語りかけた。


「私に傷のついたリンゴを全て買い取らせてください、勿論正規の価格で」


店主はポカンとした顔でナトを見た。そして数秒フリーズした後、ブンブンと首を横に振った。


「とんでもない!ナトさん、引き取っていただけるのは嬉しいが、こんな傷だらけでデコボコのリンゴを正規の価格で売るのは八百屋の名折れだよ」


気のいい店主として知られるラブラドールレトリバーの彼は、精一杯の空元気を振るってナトに対応する。


「いえ、これはループス城使用人側の不手際。レグメさんに被害を出したままにはできません」


そう言うと有無を言わさず金額ピッタリを彼に握らせ、他に被害が無いかと確認しに足早に去っていってしまった。


「……ありゃ、何だったのかね?」


店主レグメは一連の目まぐるしい出来事への感想を呟いた。


「レグメさん、知らないのー?ナトさん、いつもそのリンゴ美味しそうにかじってるんだよー?」


街が騒がしい故に家から飛び出してきた何も知らない子供たちはナトとのやりとりのことかと思い明るい声で笑う。


「ナトさん、すっごく優しいんだよー!僕達に勉強教えてくれたり〜、本読んでくれたりするの!でも顔はちょっと怖い!」


無邪気に、それは楽しそうに笑う子供達。大人達は普段物静かで寡黙な彼しか見てこなかった為、穏やかな空気が流れ始める。


「なんだい、てっきり冷徹な仕事人間かと……」

「あら〜、寡黙でぶっきらぼうな人だと思ってたわ?」


彼らが再びナトに目をやると、彼は遠くからでも目立つ黒馬になって、先程の騒動で倒れた資材を設置し直していた。


「せめて箱くらいは持たせてやらんとな!」


自身の仕入れた商品を気に入ってくれていることにようやく気づいたレグメは、先程とは打って変わって張り切ってリンゴの汚れを洗い流しながら箱へ詰めていく。


そして、ひとしきり箱へと詰め終わった頃、場の騒動と事故をあらかた片付けたナトが再び戻ってきた。


「ナトさんよぃ、うちを贔屓にしてくれてるんだって?」


再び箱に山積みになったリンゴを渡す際に、店主は上機嫌で問いかけた。思わぬ話をふっかけられたナトは耳をピンとさせるほど驚く。何故バレた……と考え込むも、後ろから視線を感じ、振り向くと子供達がわらわらと走り去る。


「……この品種は」


ナトがリンゴのように赤くなった顔を少し逸らしながら言った。


「私の幼い頃に、よく食べていたんです、母と」


その横顔には、微笑が浮かんでいた。少し切なく、懐かしげな柔らかい笑みが。ナトのそのような表情など見たことのない店主は珍しいものを見た、とばかりに興味津々となる。しかし、ナトはすぐその微笑みを引っ込め、苦笑して言った。


「少し話しすぎました、お忘れください」


箱を受け取ると、すぐに去ろうとするナトに店主が呼びかけた。


「コンポート!コンポートなら数日保存が効くよ!」

ナトは振り向いて会釈をした。会釈以上に目立つのは、その大きく満足げに振れる尻尾だった。




―――そして、現在


「……ト、ナト、ナト、聞こえていますか?」


少しやつれ気味なフォルテがぼんやりとリンゴを煮込む鍋を眺めていたナトに声をかける。


「ハッ」


ビクッと驚くと共に背筋がピンと伸びるナト。そんな様子を見てフォルテは苦笑する。


「スミマセン、今日はあなたの休日なのに……、しかし、火をつけたままだと流石に危険かなと思い」


釈然としない言い訳にナトは少し呆れながら鍋から出来立てのコンポートを取り出し、2人分取り分けた。


「ナト?何故2人分よそっているんです?」


フォルテは苦笑で彼に問う。しかしナトはフン、と鼻を鳴らして答える。


「味見、と言えば食べる気になるか?」


フォルテがすぐにこの手の休息を取らないのはいつものことだ、と割り切っている。フォルテは言葉にならない言葉を呻きつつ、自分のことを理解してくれる彼に非常に感謝していた。


「……で、何があったんだ」


熱々のコンポートをチョンチョンとつつきながらナトはフォルテに問う。フォルテはハァ……と深いため息をついて話し出した。

ナトさんはリンゴが好きです。意外と甘党なタイプ。


面白い、続きが読みたいと思っていただけたら評価、ブックマークetc…よろしくお願いします。

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