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孤独の剣士

投稿日まばらでスミマセン……

―――ループス城、廊下


「……ヴェラ様は、非常に賢いお方ですね。平静を保ち、すぐに場を収めることができる」


それまで黙って歩いていたブレンがそう呟いた。彼の呟きにフォルテはピタ、と足を止める。


「えぇ、ロボ様の教育の賜物です」


フォルテは葛藤していた。先程の混乱の中でも、その場にいた者達の読心をしていたフォルテは、大きな疑問を抱くこととなった。


「……あの」


彼が聞いた、大きく悲痛な心の声の持ち主は。


「君は、キサラギ家を知っていますか?」


フォルテが口を開く寸前、ブレンは覚悟を決めたように彼に問う。驚いたフォルテは、言葉を呑み込むとブレンに向き直る。


「確か、剣術が得意な名家のはず……」


フォルテは考え込むように呟いた。そんな彼を見てブレンは神妙な面持ちで頷く。


「キサラギ家は、代々続く大太刀使いの名家でしてね」


フォルテは彼の話に耳を傾ける。


「先程、名乗らせたのは確認のためなのです。あの特徴的な大太刀は、キサラギ家が代々受け継ぐ名刀『弥生』……万が一にでも盗まれ、知識もない者に振るわれて暴走されては堪らない」


そこまで語ったブレンは腰に身につけているサーベルを愛おしげに撫でる。


「私の……今は亡き戦友が、先々代キサラギ家当主でした」


戦友、と言う言葉にフォルテが硬直する。ヴェラの生まれる5年ほど前……、彼が5歳の頃に起きた戦いは、3年という月日で完全に鎮圧した。その間、激戦の初期の3ヶ月を除けば、ほぼ冷戦状態だったとはいえ、少なからず戦死者も出ていた。関連死も含めれば、フォルテの父もその1人である。


「……この剣、『ファントム』と共に、カズヒコと戦いましたよ」


キサラギ家の名君と呼ばれしカズヒコの名が出て、フォルテはふと我にかえる。自身の目の前にいるのは先の戦争を戦い抜き、このループスを守った英雄なのだ、と。

「イツキ君は、キサラギ家本家の正統な跡継ぎです」

ブレンはそう言って目を伏せた。


「……風の噂で聞きました、本家が火事に見舞われて彼は両親を失った。行き着いた先の分家では、散々な扱いを受けていた、と」


心底悔しそうにブレンは声を絞り出す。


「きっと彼は、自分を示したかったのではないか。お飾りではなく、しっかりとした実力を持っているのだ、と」


イツキへの憐れみよりも、キサラギ家の分家筋の人々への怒りを纏った彼は静かに震えていた。


「イツキ君の剣技は、おそらく独学でしょう。それでもあれだけの強さを持っていた。……彼に、チャンスを与えられないでしょうか」


そう言うと団長ともあろう彼が頭を地につけ、土下座をしていた。フォルテは驚きに目を見開く。


「なっ……ブレンさん、顔を上げてください。私には決定権はないのです、ヴェラ様に掛け合いましょう」


そう口走ったフォルテは、先程のイツキの心の声と、今痛いほどに聞こえるブレンの心の声を聞いて葛藤していた。


『怖い、寂しい、誰か、誰か助けて』


見た目ほど心の成長が伴わないイツキの声は、助けを求めていた。それはまるで、親を見失った迷子のように。


『どうか、彼を救わせてくれ。せめて私くらい彼に手を差し伸べさせてくれ』


どれほど口で誤魔化そうとも、フォルテには筒抜けだと言うのに、ブレンは何一つ嘘偽りのない言葉を並べていた。


「ヴェラ様に、掛け合ってみましょう。今できる最善はこれくらいです。後は……、イツキ君が大人しく捕らえられてくれるか、と言ったところでしょう」


そう言うと、やっと顔を上げるブレン。フォルテは微苦笑を浮かべる。


「ヴェラ様なら、決して頭ごなしに切り捨てることはありませんよ」

孤独な剣士に悲しき過去。


面白い、続きが読みたいと思った方は評価ブックマークetcよろしくお願いします。

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