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孤独と衆愚

久々の更新です、遅くなりました。


―――ループス城、訓練場


ループス城のすぐ隣には、ウルガーの時代に大幅に整備された訓練場が併設されている。ヴェラ一行は、その訓練場までやってきていた。


「ヴェラ様!こんな汗臭い所まで……、精進します!」


若い衛兵がヴェラを見て敬礼をする。


「いつも鍛錬お疲れ様、これからも頑張ってくださいね」


そうヴェラが言いながら微笑むと、耳をペタンと倒し、カールした尻尾をブンブンと振って全力で喜びを表現している。


「ブ、ブレン団長……!」


その後ろに聳え立つブレンの姿が目に映った途端、衛兵は真面目な顔となり、足早に走り去る。


「……おや?訓練場の端の方で何やら人だかりができていますが」


フォルテが騒ぎを見つけ、ポツリと呟く。


「侵入者だ……!」


騒めく騎士団員達をよそに、団長ブレンと副団長カルラは人だかりの元へと向かう。ヴェラもついて行こうとするのを、フォルテは彼女の腕を掴み、引き留める。ヴェラはフォルテに何か言おうと口を開きかけるものの、フォルテの真剣な顔を見て踏みとどまる。


「グアッ……!」


侵入者と思われる人影の太刀の一振りで、大柄な衛兵が宙を舞った。門番を任される衛兵はそうそう切り伏せられることはない実力者である。その様子を見てフォルテは即座にヴェラの前に立ち、防御壁となる。ヴェラは執事の表情が強張るのを見てまだ見ぬ騒動の元凶を睨む。衛兵達のリーダーであるブレンとカルラはその様をじっと見ている。ヴェラを狙おうとする者なのか、はたまた別の目的なのかと目を凝らす。


「何人だろうと変わらない……」


再び太刀を一振りして、砂埃を払う。濛々と舞う砂埃が途切れたその一瞬に見えたのは、尖ったイヌの耳を持つ比較的小柄な青年であった。彼が身に纏う服は衛兵やカルラ達のような金属質のものではなく、しなやかな動きを可能にする少し厚手の布製の着流しである。


「弱い奴らがどれだけ集まろうと烏合の衆……、群れることに意味などない」


傲岸不遜な態度で青年は自分に挑んで地に伏した兵士達に言い放つ。ふと女性であるカルラを見つけ、小馬鹿にした笑みを浮かべて続ける。


「ハッ、自分はそこいらの衛兵とは違うんだ、とでも?」


「あぁ、そうだね。アンタを斬り伏せるくらいには強いさ。それに……今アンタなんて言った?群れることが弱い?」


カルラは青年の挑発など意に介さない様子で青年を見下ろすように言い放つ。青年は鬱陶しげに鼻を鳴らした。


「あぁ、そうだとも。今ので十分にわかっただろう?毎日毎日同じことの繰り返しをした果てに生まれるのは自分の頭では何も考えられないバカ共だということが」


ヴェラの表情が引き攣り、纏う空気が冷たくなるのをフォルテは見ずとも感じた。カルラは冷めた目で青年を黙ったまま見つめ、ブレンに至っては少し笑みを浮かべている。ヴェラやカルラよりも若いその青年は、鼻で笑う。


「なにが仲間だ、助け合う?……アホらしい!弱いものが淘汰されるのがこの世の常、カルニボアの常識だろ?」


言い終わると同時に、その小さな体格に不釣り合いな大太刀をカルラの眼前に突き付ける。ようやくしっかりと捉えたその姿は黒茶の短髪に尖った耳が特徴的な柴犬の青年。退屈そうな目をしながら、その大太刀を見事に使いこなしている。決して大きくはない犬種でありながらも、オオカミと最も近い遺伝子を持つ野生を秘めている。そんな彼らは、猫のような犬と評される事もあるほど気難しい人々として知られている。


「名乗り給え、柴犬の青年」


カルラは一切怯むことなく、むしろ挑戦的な笑みを浮かべながらその青年に問う。


「……っ。イツキ・キサラギ。」


一切怯まず、堂々としているカルラを見て一瞬悔しげな表情を浮かべた後、不機嫌そうに己の名を述べた。その名を聞いて、ブレンの眉が密かに動く。


カルラは腰の剣を引き抜いた。リーチの短い両手剣である。イツキが小馬鹿にしたようにケラケラと笑う。


「ハッ、やはりハスキーは頭が悪いんだな、そんな剣でこの太刀を凌げるとでも?」


カルラを煽ることで理性を奪おうとするつもりなのか、イツキはバカやアホなどという低俗な侮辱の言葉を重ねる。


「……お喋りはすんだか?始めるぞ?」


片耳をピコと傾けた後、目線を少しだけ上げてカルラはイツキに問う。一切の煽りを無視され、舐められたと逆上したイツキが開始の合図を待たずにカルラに飛びかかる。


「おっと、威勢がいいな!やはり若いだけある!」


心底楽しそうにカルラは笑いながら先程大柄な衛兵を吹き飛ばした一撃を余裕綽々で受け止めている。


「なっ……?!」


不意を突き、渾身の一撃を喰らわせたにも関わらず、受け止められていることに動揺するイツキ。そんな彼を見つつカルラは何もせずにいる。


「ほら、純粋な力比べといこう」


人差し指をクイクイ、とイツキにむけて挑発すると、イツキは悔しそうに表情を歪ませる。


「クソが……ッ!」


力に任せて太刀を振るうイツキの攻撃を両手剣で受け止めほんの少しの間、鍔迫り合いをした後グイと押し返す。


「は……?」


カルラがいくらボーイッシュな見た目をしていようと肉体は女性である。女性に力負けした、という事実と未知の実力に気の抜けた声を上げるイツキ。


「どうした?もう終わりか?」


なりふり構わずカルラに追いつこうと走り回るイツキ。一瞬、彼の姿が消えた、と思った次の瞬間、アッパーカットのように太刀を振り上げて攻撃してきた。飛び退ってそれを避けるカルラが高揚した声で叫ぶ。


「ほう!今のはなかなか良い!門番を吹き飛ばすだけはあるな!」


息を切らしながらもイツキはカルラに斬りかかる。


「今お前が苦戦している私の身のこなしは」


カルラはひょいひょいと避けながら言葉を紡ぐ。


「全ては毎日毎日鍛錬を積んだからこそ手に入れたもの」


イツキの剣捌きに迷いが生じる。


「全ては、皆と学び合うことで得たものだ」


カルラがそういった瞬間、イツキは彼女の目に砂を浴びせた。瞬時に受身を取ったものの、イツキの大太刀がカルラを襲った。体勢を崩したカルラが地に転がる。イツキが激情のままにその首筋に大太刀を突き立てんとしたその時、ヴェラよりも先に団長ブレンのサーベルがイツキの大太刀を弾いていた。


「クソッ……、何なんだ……!」


カラン、と音を立てて大太刀が地に落ちる。それを拾おうとしたイツキはブレンにより地面に倒された。そして、ブレンのサーベルの剣先がイツキの喉元をゼロ距離で捉えている。


「ふむ、カルラは他の兵よりも数段格上……。カルラ相手に善戦したのは褒めてやろう」


どこか呆れた口調でブレンはイツキに言い放つ。先程のヴェラへの態度とはかけ離れており、寒気がするほど冷え冷えとした声である。


「戦闘において、相手を何としても打ち負かすことは重要だ。それは相手もまた己を殺しに来ているからだ、わかるな?」


言葉を切り、イツキを見下ろすブレン。ガクガクと震えながらもイツキはその目から視線を外すことができない。


「だが、今行った試合はどうだ?それは殺し合いではなく、お互いの実力を測る為の行為。そこに殺意など存在しない。だが、今の行為は……殺意に満ちていたぞ?」


老兵の目は静かな怒りに満ちていた。オオカミとは異なり、主人に従順な気質を備えたイヌとなって尚、その鋭い瞳は鋭く野性を残している。

その目が、イツキを鋭く射抜いていた。

ブレン団長は強いイケオジです。


面白い、続きが読みたいと思っていただけたら高評価etcよろしくお願いします。

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