副騎士団長カルラ
ヴェラに飛びかかってきた人は…
―――ループス城、正門前
「ヴェラ!久しぶりだな!」
ヴェラに飛びかかってきたのはショートカットの黒髪の女性。腕を獣化させ、彼女からの一撃を軽々と受け止めたヴェラが満面の笑みとなる。
「カルラ!久しぶりね!」
先程までの沈痛な面持ちはどこへやら、ボーイッシュなその女性を抱きしめる。
彼女の名はカルラ。カルラ・フォーゲル。シベリアンハスキーの純血者である。ヴェラとは幼馴染であり、悪友として共に悪戯に興じていた。二人は成長と共に強くなり、悪戯は手合わせへと変わった。カルラが近衛騎士団副団長となった今でも時折手合わせをしたりする仲である。
「カルラ様、いきなり飛びかかるのは……」
執事フォルテは引き攣った苦笑を浮かべながら呟く。領主の娘として模範的に育ってもらいたい派閥と、芯のある女性になって欲しいヴェラの両親とで過去にカルラとの交友について一悶着あった。そのため、フォルテは常に神経を尖らせている。
「フォルテ、もう誰も私の交友関係に口出しはさせないわ。誰と友人となろうと私が模範的で理想的な領主の娘であれば迷惑貴族達はは黙るんでしょう?」
彼の耳元でヴェラが挑戦的に呟いた。フォルテは主人の不屈の精神に内心拍手を送る。が、交友関係すらも制限された時の鬱陶しさに彼女の心が、烈火の如く燃え盛っていたことを思い出し小さく身震いする。ハァ……と小さく吐息をつくとヴェラはそれでいい、とばかりに満足げな笑みを浮かべた。
「結局のところ、ヴェラ様は実力至上主義ですよ」
チクッと刺すように皮肉を言ってのけるフォルテ。ヴェラは苦笑した。
「弱者も強者も、平等に、分け隔てなく接することができるようになればいいのでしょう?」
ヴェラは微苦笑と共に言い放つ。するとカルラがケラケラと笑って言った。
「ヴェラ!お前は強者でも、他者に手を差し伸べることができるだろ?驕ることだってそうそうないだろ?」
ニカッとした笑みを浮かべるカルラを見て、ヴェラは素直な笑みをこぼした。
「さぁ?もしかしたらいつか驕ってしまうかもしれない。そうならないように、心身ともに鍛錬を続けるのよ」
カルラはヴェラの腕を引いて走り出す。
「だったらさっそく獣化で競争しようぜ!鍛錬になるぞ!先に怒られた方の負け!」
途端、黒毛のシベリアンハスキーとなるカルラ。その紺碧の瞳はオオカミとかなり似ている。
「フフッ、それは勝負にならないわ、カルラ」
以前のように悪戯を一緒にできる立場ではなくなり、一瞬寂しげな笑みを浮かべるものの、人の姿のまま楽しげにカルラを追いかける。
「な……!やはり速いな!」
息切れすることもなく、ランニング程度のペースでカルラを追うヴェラ。カルラが加速すると、ヴェラは瞬時にオオカミ姿になり、彼女の前に躍り出る。
「ぬわっ!」
急ブレーキにより体勢を崩し、地面に大の字に転がったカルラを見下ろすヴェラ。キューンという甲高い声を上げたのはカルラ、降参の意を表している。
「あなたは優しいもの……、私も少しは見習いたいわ」
二人のそんな様子をフォルテはヒヤヒヤしながら見ていた。
「おお、ヴェラ様何とお優しい……」
声をかけてきたフォルテよりも筋骨隆々なその男の名は、ブレン・シュバルツ。ジャーマンシェパードの純血者であり、近衛騎士団団長である。非常に優れた運動神経の持ち主であり、ループス領への忠実さはウルフレム家に勝るとも劣らない。
「シュバルツ様、どうも」
フォルテはブレンに軽く会釈をした。フォルテどころかロボよりも年長のブレンは先の内戦でも多くの民を守った。そんなブレンに対し、敬意を払わない者はいない。
「フォルテ君!カルラは迷惑をかけていないかな?」
人懐っこい笑みはイヌそのもの。普段の精悍な顔付きからは想像できないくらいに頬を緩める。
「大丈夫ですよ、シュバルツ様」
フォルテが微笑して答える。ふとカルラから意識をズラしたヴェラがブレンの気配に気づき、軽く会釈をしてカルラと共に駆け寄る。
「団長様、どうかなさいましたか?」
ヴェラは微笑みながら彼に問う。カルラはヴェラの影に隠れて、ブレンに怒られまいと抵抗する。
「カルラが迷惑をかけていませんか?あとで叱っておきますのでどうかお許しください……」
頭をポリポリしながらブレンは話す。親子どころか少し早い孫というくらいに歳の離れた団長と副団長は、師弟関係でもある。何かとヤンチャなカルラだが、5年前に両親を火事で亡くしている為に、ブレンに引き取られた。
それからというものの、毎日鍛錬に明け暮れた結果、副騎士団長の座にまで上り詰めた。ブレンには子も孫もいなかったが、二人は共に過ごすうちに本当の家族のようになった。
「ブレ爺、私ヴェラに迷惑なんてかけてないもん」
口を尖らせ、プンスコと拗ねるカルラ。
「こら、カルラ。ヴェラ様を呼び捨てなど……!」
カルラの不遜な態度にブレンが咎める。そんな2人をクスクスと笑うヴェラとフォルテ。
「仲がいいんですね、お二人とも」
フォルテが笑顔で言った。ヴェラも続く。
「フフッ、団長様。そんなに畏まらないでください」
そう言われ、苦笑を浮かべるブレン。
二人を、大切な臣下として、友人としてヴェラは愛おしく見つめるのだった。
ハスキーって凛々しいくせにちょっと抜けてるところあるの最高にかわいいと思うんです。
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