フォルテの憂鬱
フォルテとナトのお話です。
―――ループス城、廊下
フォルテとナトは一礼をしてロボの執務室を後にし、廊下へと出た。そして暫く歩いた後、ナトは立ち止まって、フォルテを呼び止める。
「……ッ、フォルテ」
フォルテは苦笑しながら振り返る。
「……どうしたんですか、ナト」
その笑みは少し引き攣っており、先程の会話に触れるなと暗に言っているようであった。
「紅茶でも飲まないか?」
途端、フォルテが拍子抜けした顔となる。そして、プッと吹き出すナト。
「な、何ですかナト。何故笑って……」
フォルテはクククと笑うナトを見て困惑していると、ナトは自室に向かい、スタスタと歩き出す。
「ちょっ……待ってくださいって!」
―――ナトの自室
「ダージリンだ、なかなかな高級品で……先日、ロボ様から戴いたんだが自分1人で飲むのは気が進まなくてな」
トポポ……と心地良い音を立てて紅茶が注がれる。
「いい香りですね……、お茶菓子を持って来ればよかった」
そう呟くフォルテの目の前に数種類のお菓子の入ったバスケットを置くナト。それを見てギョッとするフォルテ。
「な、ナト、あなた甘党でしたっけ……?」
驚くフォルテを見て首を振るナト。
「私は別に甘党ではない、ロボ様の使いを頼まれた時にお菓子をいただく事が多いんだ……」
小洒落た薄い紙に包まれたクッキーを手に取るとサクッとした音を立てて食べる。
「……何せ、量が多くてな。美味しいとは言えとても食べきれない」
フォルテはナトの遠回しな配慮に思わず微苦笑した。そしてクッキーを手に取り、口にする。
「あなたにはフォローされてばかりですね、ナト」
微笑んでナトに告げるフォルテ。そんなフォルテを見てナトは苦笑する。
「私は感謝しているんだ、フォルテ」
はて、と首を傾げるフォルテを横目にナトは続けた。
「孤独だった私に、飽きもせず話しかけ続けてくれた。おかげで対人スキルが少し……身についた」
そして、ナトは一気に紅茶を飲み干して言った。
「あのな、フォルテ。何度も言うが無理をしすぎるな」
真剣な目をしてナトは言う。そんな彼を嬉しそうに、しかしどこか辛そうに見るフォルテ。
「ありがとうございます、ナト。……戦争はおそらく不可避、私が戦地に立つ可能性も大きい。ヴェラ様の執事として私は……いえ、ループスの民として、ウルフレム家の者として私は。この戦争に参加せねばならないでしょう」
俯いて悲しげに呟くフォルテ。
「戦争なんてしたくないんです、この生活を壊すであろうそんな戦争なんて」
フォルテはこの城の中でもトップクラスに頭脳明晰である。故に、この領がすべき事、この国の向かう末もまた理解している。
「……ナト、手合わせを願えますか?」
フォルテが顔を上げて言った。真剣な目で、声で。
「できる限り本気で、私を倒しにかかってきてください」
そんな様子のフォルテを見て、ナトは目を伏せる。
「それで少しでも気が晴れるなら……」
ナトは知っている。フォルテの憂鬱が晴れないことも、この手合わせの意味も。
「本気で……か」
ナトは苦笑して呟く。フォルテは首を傾げた。
「あなたは強いでしょう、ナト。魔法も、獣化も、体術も」
フォルテが不思議そうに言う様を見てナトは言葉を呑み込む。
「……ヴェラ様やロボ様には遠く及ばないからな?」
ヴェラやロボの相手をしているフォルテからすれば、自分は弱い、と彼は釘を刺すのだった。
次回、2人の手合わせです。
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