追憶と現世
チラッとフォルテの過去。
悲しげな顔をするロボからフォルテは顔を背けながら言った。
「ッ、父は、ウルフレム家として、従者として殉職しました。ロボ様が責任を感じる必要はございません」
声を詰まらせながらもフォルテはすかさず否定する。
頭でわかっていても、心がわかってくれない。
何故父が。
攻撃を受けて庇って外傷を受けたのならまだしも、まだ気づきようのある魔力枯渇で死ぬなんて。あれほど強かった父が、あっけなく死ぬなんて。
どうして気づかなかったのか。
それほどまでに、命は脆いのか、と。
父もまた自身と同じく、読心術を持っていた為に、きっと主人のことを思って何も言わなかったのだろうと自分に言い聞かせてきた。
それでも尚……、父の死は幼い彼へ疑問を抱かせた。何故私はこの者たちに仕える?何故この者たちに命を捧げる?と。
従者という立場に疑問を抱いていた10歳の時、ヴェラが生まれた。
フォルテはその命の尊さを知った。
『君が、この子の執事となるんだよ』
あの時ロボから言われた言葉を彼は一生忘れない。
守らなければならない、小さな小さな命。
未だに従者として殉職した父のことは、彼の心に大きな傷を残している。
しかし、彼はヴェラに執事として仕え続ける。
父も、こんな気持ちだったのだろうか、と考えながら。
「……ルテ、フォルテ?大丈夫か?」
ハッとして顔を上げると心配そうなロボの顔があった。後悔と自責の念の入り混じったその表情を見ると、読心をせずとも従者であった父の死を悼んでいるのがよくわかる。
「も、申し訳ありません、大丈夫です」
フォルテは我にかえると静かに首を振った。静かに控えていたナトの視線がフォルテへと向けられ、彼からも心配されていることに気づきつつ、ロボに問う。
「ロボ様、フェリシア領との会談はいつに致しますか?」
ヴェラがノワールとした約束である。主人の成果を無下にされてはたまらない、と。
「ふむ、彼にはあまり時間が残されていないからな。できれば早急に手を打ちたいところだろう。……1週間後、体調を整えて来るように、と伝えてくれ」
ロボがふと天井を見上げて苦笑している。
「ロボ様、いかがなされましたか?」
それまで黙っていたナトがロボを気にかける。
「……いや、昔を思い出していた」
ナトとフォルテは顔を合わせた後、首を傾げる。
「周りが見えなくなって、誰にも頼れなくなるのさ」
苦笑と皮肉混じりの笑みを浮かべ、ロボは言った。
「……私個人の意見としては、フェリシア領対ロレオーヌ領の戦いには参加したくない。しかし、この国はあまりに獣化に頼りすぎている。国際規模で考えれば獣化至上主義はあまりに極端だ。たかが3億の人口しか持たないカルニボアだけで世界は回っていない。ルーデンティア公国は15億もの人口がいるんだぞ?そんな世の中でこの仕組みはあまりにも滑稽。カルニボアの民が獣化の強さに誇りを持っていようといまいと、いずれは破綻する」
そう語るロボの目は鋭い。一領主として世界の情勢を見てきた彼はカルニボアの脆さを知っている。
「……もし、フェリシア側が勝てば、この国は変化の兆しを見せることだろう。その際に、フェリシア側に立っていれば……ループス領は彼らを助けることができるし、発展をまた遂げることが出来るし、彼らとより良い関係が築けるだろう。……フォルテ、ヴェラはフェリシア領主を気に入ったのだろう?きっとあの子はフェリシア領を助けると言い出すことだろうね」
ハァァァァァ……とロボは深い深いため息をつく。娘の言うことだから言うことを聞くわけではない、フェリシア領の勝利のもたらす恩恵とリスクを鑑みているためだ。
「……やはり、フェリシア領主君を見てからにしよう。先代のクロノワ氏から変わってどのような領主なのかを見てみたいからね、彼が協力に値するか否か見定めさせてもらおう」
そう言ってノワールとの会談を心待ちにする様は娘ヴェラそっくりである。その様子を見てフォルテとナトは微笑するのであった。
ロボとフォルテのお話です。
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