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黒豹のザギ

久しぶりの更新です。

ノワールサイドに移ります。

―――フェリシア城、ノワールの部屋



「これで、やっと、進歩した……」


ノワールは少し安堵の表情を浮かべながら呟いた。ヴェラ達が帰路についた頃、秘書シルヴェスとヴェラからの招待状が本物であることを確かめた。


「次は……ッ……ぇ?」


机から立ち上がった瞬間、ノワールの視界はグルンと傾いた。自身でも何が起きたかわからないまま、気の抜けた声を発する。床に頭を強打し、遠のく意識の中、彼の名を呼ぶシルヴェスの悲痛な声が耳に残る……。


「(大丈夫、だ……シルヴェス、次の仕事を……)」


そして遅れてやってきた痛みにノワールは意識を手放した。


「ノワール様!ノワール様……ッ!!」


シルヴェスは狂ったように主人の名を呼んでいた。名前を呼び続けるのをやめたら、そのまま消えてしまいそうな気がして。もう二度と目を覚まさないような気がして。あまりに無理をし過ぎていたノワールが倒れたことで気が動転し、普段の彼女であれば冷静な判断をするであろうに名を呼び続けることしか出来ずにいた。





「落ち着け、アンタの主人は死なせない」


短めの黒髪から見える耳もまた黒く、特徴的な柄が付いている。その長身の男は音もなくノワールとシルヴェスの元へ現れた。


「……ッ、ザギ様!ノワール様を、ノワール様をお助け下さい!」


縋るような声でシルヴェスはその男の名を叫ぶ。シルヴェスとは対照的にザギと呼ばれたその男は冷静にノワールを診察し始める。


「……外傷による脳震盪ではなく、過労による失神か」


フゥ、と息を吐くと不安げな表情のままオロオロとしているシルヴェスに向き直り、苦笑しながら言った。


「アンタもきちんと休んだ方がいい、コイツは俺が責任持って診とくから」


男の名はザギ。ザギ・レナード。黒豹の男性獣人である。帝国議会議長イソティスを父に持ち、自身は医師というノワールに劣らぬエリートである。ノワールとは学生時代に出会い、それ以来親友として交友関係を持ち続けている。


「し、しかし……!」


尚も食い下がるシルヴェスをまじまじと見ると、ザギはニマーッと笑った。そして呟く。


「主人と従者って似るんだな……」


不意にノワールとの関係を突かれ、シルヴェスは顔を真っ赤にしてザギに抗議しようとするが、口をパクパクさせるばかり。


「なっ……!」


そんな彼女の様子を見て愉しげに笑うザギ。ひとしきり笑った後、彼女に小包みを手渡した。


「疲労回復効果のある薬だ。諸々入ってるから好きに使うといい。無理はしないように」


念押しのようにグイ、と指をシルヴェスにピンと指す。ポカンとするシルヴェスを横目にノワールを背におぶうと、スタスタと立ち去る。


「へ……?」


取り残されたシルヴェスは拍子抜けした声を上げ、ザギとノワールの背を見送った。




―――フェリシア城、医務室


「よっと……」


ノワールを医務室のベッドに寝かせると、先程シルヴェスがした彼のメイクを丁寧に拭き取った。


目元に深く刻まれた隈、やつれて少し痩せ気味にも見える頬……。少しの振動や騒音ではピクリともせず、深い眠りに落ちている。そんな様子の親友を見てザギは悔しげに呟いた。


「なぁ……、ノワール。倒れる前に少しは俺を頼れよ……」


穏やかな吐息を立てて眠るノワールを横目に彼は薬の調合を始める。彼はノワールの親友ということで殆ど特別な手続きなしにフェリシア城に出入りできる数少ない人物である。


また、ノワールからの依頼でフェリシア領の医師として活動することもある。その代わりにフェリシア城での新薬調合の研究をすることが許されている。ザギが分量を細かく記録しながらコツコツと作業を続けた。眠り続けるノワールを起こすこともなく、ただ静かに寄り添うように。



―――次の日の昼頃……


「……?」


眉間を中指でグリグリと押した後、ノワールはハッと飛び起きる。そしてガンガンと痛む頭を抑えながら、軽く頭を振った。


「お目覚めか、猫の貴公子さん」


白衣を纏い、自分を覗き込んでいるザギの姿を見るなり、深い深い溜息を吐くノワール。そして力なく首を振る。


「ハァ……、迷惑をかけた、ザギ」


ふと自分の服を見れば白のガウンとなっていることに気づき、彼は苦笑する。


「ノワール、今日公務は休日な。クロノワさんに全部話てあるから、今日は一日大人しくしてろ」


真剣な表情をしながら彼を注意するザギがふと本気で心配そうな顔をして、面食らうノワール。


「……待ってくれ、そもそも私は倒れてから今まで何時間寝ていた?」


ふと我にかえり、起きたてで働かぬ頭を必死に回転させ始めた。そんなノワールの様子を見てクククっとザギが笑って言った。


「リリーシャスさんが心配してたぞ、それはもう狂いそうな程に」


思わぬ報告を聞き、より困惑するノワール。その様子を見たザギはやれやれと首を振った。


「はー……お前って変なとこ鈍いよな」


聞き取れるかギリギリの小さな声でザギは呟いた。普段のノワールならば聞き取っていただろうが、起きたてで頭が働いていない彼は首を傾げるばかりだった。


「お前、倒れてから大体16時間くらい寝てたぞ。少しは自分の身体を大事にしろ」


そう告げると、彼が作ったであろう食事がノワールの前に出される。バランスの良い彩り豊かな品々だ。


「ホント器用だな……」


健康の為と言って、料理までこなしてしまうザギをノワールは尊敬の眼差しで見つめた。


「あ、明日ヘンリーとラヴィも呼んで飲むぞ」


ザギから唐突に放たれたその一言に一体何を言っているんだ、とノワールは尊敬の眼差しから一転し、呆れた顔をする。


「もう連絡はしてある、即了解と返事が来たぞ」


ニヤッと笑うザギ。ノワールは片手で顔を覆って首を振った。そして大きな溜息と共に呟く。


「ハァーー……何故カルニボアの超有名俳優と宮廷官僚が即日OKできる?訳がわからない……」


同じくかつての学友であるヘンリーとラヴィも来ると知り、ノワールは頭を抱える。


「気にするな、金は俺が出す」

「あのなぁ、場所は私が提供するんだぞ?」


間髪入れずにノワールはツッコミを入れる。それを楽しそうに笑うザギ。


「お前は良くも悪くもホントに変わらないな」


そう呟くザギは寂しげな表情を浮かべている。ザギの表情を見て顔を曇らせるノワール。


「あぁ、……少しも獣化の強さは変わらないし、統治の腕も上がっていない、不甲斐ない実力不足の青二才だ」


自身への嘲笑、今まで自身にかけられた言葉、それを全て込めた愚痴であった。


「……先に2人で飲むか?」


弱りきった親友を見て、ザギは苦笑を浮かべてノワールをサシ飲みに誘う。


「フフッ、医者のお前が私に酒を勧めてどうするんだ」


ノワールはザギの下手な気遣いに思わず吹き出す。


「ありがとな、ザギ」


下手くそな心からの笑顔を見せる程に、彼は親友との一時を穏やかに過ごした。

書き溜めてからの投稿となるので1、2ヶ月ごとの更新となりますことをお許しください。


ザギはイケメンです。

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