訪問者①
リンゴーーーン…
朝食を食べ終え、片付けをしていたところに玄関の鐘が鳴った。
「リオー!おい、リオ、レナードぉぉぉーー!」
「リ、リオ、誰か来たみたい」
突然の訪問者に、私は落ち着きなくリオに駆け寄った。
「注文したものが届いたね」
リオがニコッと微笑んだ。
この屋敷は森の中にあるため、生活に必要な物資は街で調達するか、配達の依頼をしている。
リオは、こないだのミュゲの開花を見て、魔法の練習がてら屋敷の庭で野菜を育ててはどうかと提案した。
トマトに玉ねぎ、ジャガイモ、にんじん。野菜の他にも料理や薬に使えそうな薬草など、前世とは名称が異なるものも、本を見ながら選んだ。その種や苗が、届いたというのだ。
「リオ、私、受け取ってくる!」
私は待ちきれず、玄関まで駆け出した。
「あ、アサヒ待って…!」
とリオが声をかけたときには遅く、玄関から
「うわっ!お前は誰だ!!!」
と、訪問者の慌てる声が響いた。
リオは急いで玄関へ向かった。
「俺を配達業者呼ばわりとは、なかなかの扱いだな、リオ」
短髪の青年は、話しながらも次々と馬から荷物を下ろしていく。
「悪かったって。あ、そっちの苗は庭に下ろしてくれ。あとは屋敷で」
二人が庭先で話す様子を玄関から覗き見ていると
「アサヒ、こいつを紹介するから、隠れてないで出ておいで」
と、リオに声をかけられた。私はハナを抱えておずおずと出ていき、リオの後ろに隠れた。
「おう、お嬢さん、さっきは叫んで悪かったな。俺はランドール。ランディって呼んでくれ。リオとは幼少期からの旧友なんだ」
ランディは、ニカっと歯を見せて笑った。
年はリオと同じ15歳くらいだろう。腰には大きな剣があり、簡易的な鎧も装備している。
「アサヒです。こっちは猫のハナです」
私はリオの後ろから少し顔を出して、ペコっとお辞儀した。リオの友人を信用していないわけではないが、ハナを猫又と紹介するのはやめておいた。
「ランディはこうして物資を届けてくれたり、王都や街の情報を届けてくれたり、ここでの生活をサポートしてくれてるんだ」
「そんなふうに思ってくれてるとはな。それにしても…」
ランディは私をまじまじと見た。
「ここの任務になっただけでも大騒ぎだったのに、子持ちになったと知れれば、王都の令嬢が泣き叫ぶぞ。それもこんな魔力の化けも…」
「うニャニャニャニャーーー!!!」
「イタタタタタタ…ちょっ…やめてくれ…!」
言いかけた途中で、ハナがランディの顔に飛びつき引っ掻き回した。
「アサちゃんにひどいこと言うのは許さないニャ!!」
リオは慣れた手つきでハナの首根っこを掴み、ランディから引き離した。
「ランディが驚くのも無理はないけど、アサヒはこれまで魔法を使ったことがなくて、今は魔力の制御や操作の練習中なんだ。他言してくれるなよ」
リオはランディをじっと見た。
ランディはリオがアサヒをずいぶんと可愛がっていることに少し驚きの表情を見せ、
「リオがそこまで言うなら、従うまでさ」
と私を興味深げに見ながら答えた。