精霊の森②
私は木の実を拾い集めるのに夢中になった。
どんぐりみたいな帽子をかぶった可愛い木の実。
ラタトスクは木の枝と枝を素早く駆け回っては、木の実を落として遊んでいる。私がそれを拾って、また拾って。
「これはきみたちの大切なごはんでしょ?」
「キュ、キュキュキュッ、キュ」
木の実を拾い進むと、山と緑に囲まれた湖に出た。
「すごい…」
エメラルド色の水面は森の緑や空を映じて、絵のような情景である。
神秘的で圧倒される美しさだ。
拾い集めた木の実が手からこぼれ、
コンッ……
と地面に落ちた音で我に返った。
足元を見ると、私が落とした木の実をラタトスクが回収しに来ていた。
「ここまで案内してくれたの?ありがとう」
この景色を見れたのだ。一応お礼を言っておこう。
「キュキュッ」
ラタトスクは木の実をすべて頬袋に詰め終えると、さっさと木の上へ戻っていった。
ちゃっかりしているリスである。
私は湖のふちに立ち、中を覗き込んだ。
湖は透明度が高く、私の顔を映し込む。
「これが今の私…」
そういえば、転生してからこんなにまじまじと自分の顔を見る機会はなかった。
若干吊り目ではあるが、クリッとした大きな瞳。猫っ毛でふんわりした黒髪は肩までの長さに、前髪は眉毛の上くらい。頬は桃のように色づき、鼻も口も大きすぎず愛らしい。
自分で言うのもなんだが、なかなかの美少女である。
水面にヒョッとハナの姿が映り込んだ。
「どんぐり集めはもういいニャ?」
私は振り返りハナをみた。
「ハナこそ、途中でラタトスクと追いかけっこして遊んでたでしょ」
「ニャ」
しばらくして、リオが追ってきた。
「リオ、罠はもういいの?」
「しばらく待ってみようと思う。その間にかかってるかもしれないからね」
私はかばんからバターと蜂蜜のサンドウィッチを取り出し、リオに渡した。
「これ、あげる」
「アサヒの手作り?ちょうど小腹がすいてたんだ」
リオはさっそくパクパクと食べている。
「アサちゃん、ハナもちょーだいニャ」
「ハナは少しずつ食べるんだよ。喉に詰まらせないように気をつけてね」
「ニャ」
「初めての味だ。バターの塩気と蜂蜜の甘さが合って美味しいね。アサヒ、ありがとう」
「うん」
よかった。リオの口にも合ったようだ。
リオが作るサンドウィッチの具はいつもハムとレタスだけだったから、食べてもらうまで少し不安だった。
「狩りに来たのに、ピクニックみたいだね」
「アサちゃんにとっては、ピクニックのついでの狩りだニャ」
「は、ハナってば!」
浮かれていたみたいで、少し恥ずかしくなった。




