森で猫とまったり暮らします②(完結)
「アサヒさん、お茶でもどうかしら?」
暇を持て余したヤヨイからティータイムの誘いを受けるのは一日2回。10時半と15時は、高確率でおやつタイムになる。
そして、今から一回目のティータイムだ。
「ヤヨイ様、午後は冒険者ギルドに行こうと思うのですが、ハナとタロをお願いしてもいいですか?」
「えぇ、もちろん。今日はどちらへ行く予定なの?」
「先日ゴブリンの群れが発生して討伐依頼が出ていたので、参加しようかと思っています」
「あら、それならハナちゃんとタロちゃんも連れて行ったらいいじゃない」
「大丈夫でしょうか…?」
「ふふっ…大丈夫よ。そうだ、アサヒさんにも便利な魔法を教えましょう。こうしてね…」
ヤヨイから教わる魔法は、戦闘に特化したものもあれば、本にも載っていないようなマニアックなものであったりと様々だ。
どの魔法においてもヤヨイが楽しそうに教えてくれるので、レベルや難易度などは深く考えないようにしている。
(正確には、気にしていたらきりがないと気付いただけだけど…)
昼食を取り、ハナとタロを連れて冒険者ギルドへと出掛けた。
いつもは訓練も兼ねてヤヨイ式の強化魔法で駆けていくのだが、時間がないときは魔法陣を使って瞬間移動をする。本来なら転移魔法はとても手間のかかる魔法だが、冒険者ギルドへの術式を覚えてしまったので、もはやスタンプを押す感覚で発動できるようになってしまった。
騒ぎにならないように、移動先は冒険者ギルドの裏路地にした。
カランッカランッ…
冒険者ギルドへ入り、クエストを探すが、目当ての『ゴブリンの討伐』が見当たらない。
アサヒは受付に声を掛けた。
「昨日あったゴブリンの討伐はどうなりましたか?」
「ゴブリンの討伐ですね、お調べします。現在、他のパーティが対応しています。今日あるクエストは薬草の採取だけですね」
「そうですか…」
(せっかくハナとタロを連れてきたのに、残念だな)
仕方なく、いつも通りの『薬草の採取』のクエストを手に取り、冒険者ギルドを出ていった。
「アサちゃん、こっちにあったニャ」
「アサちゃん、ぼくも見つけたです!」
「ふたりとも、ありがとう。それはこっちの籠に入れてね」
さすがのふたりも数をこなせば、薬草を見つけるのはお手の物だ。
順調に集まったので、そろそろ今日は終わりにしようと思ったその時、突然の強風に煽られ、採取した薬草が籠ごと飛ばされた。
「あぁぁぁぁあッ!!!」
「ニャーーーー!!!!」
「待つですーーー!!!」
せっかくここまで集めたのに、散らばった薬草は、もうごちゃまぜだ。
「あぁ〜…」
両腕を広げて仰向けに倒れ込むと、草むらがクッションとなりポスンッと体が沈んだ。
視界には目一杯の空だけだ。
「リオ、元気かな…」
ポツリとつぶやいた自分に驚いた。
自分が思っているよりも、連絡がないことを気にしていたみたいだ。
空しかない視界に、ひょっこりとタロが覗き込みその姿を現した。
「アサちゃん、薬草集めるですか?」
続いてハナもアサヒを覗き込む。
「ニャ?」
「ふふっ…、もう今日はおしまいッ。ハナ、タロ、日向ぼっこしよ!」
「ぼくもアサちゃんとゴロンするです!」
タロは体をころんと転がした。
「ハナはアサちゃんの側にいるニャ」
側といいつつ、ハナはちゃっかりアサヒの腕枕でくつろいでいる。
アサヒは、空の雲を眺めて、草木の揺れる音に耳を澄ました。
転生した日を思えば、こんなにも穏やかな日々を誰が想像できただろうか。
全ての出会いや出来事は偶然なのか、必然なのか。
そんなことが分かるときは、きっとこの先もないのだろう。
明日も、森で、ハナやタロとまったり過ごす、今日と変わらぬ一日が始まるはずだ。
(帰ったらリオに手紙を書こう)
久しぶり。お元気ですか
…覚えた魔法も書こうかな。最近読んだ本もおすすめだし、聞きたいことだってたくさんある。
アサヒはニヤニヤしている自分に気付き、意地を張らずに早く手紙を書けばよかったとため息をついた。
(あぁ、もう…!!)
上半身を起こし、うたた寝しているハナとタロの頭をぐりぐりと撫でくりまわした。
「ニャ!?」
「うぅ…!?」
「日向ぼっこおしまい!」
アサヒは、表情を悟られまいと誤魔化しながら立ち上がった。
きっとどうしようもなく情けない顔をしているに違いないから。
さて、暗くなる前に、屋敷へ帰るとしよう。
これにて本編は完結となります。
ハナコとタロウが天国へと旅立ったことがきっかけで書き出した小説ですが、いつの間にか私にとっても大切な作品となりました。
日々忙しなく過ぎていく中で、休日のハナコ、タロウとのまったり過ごす時間はかけがえのないもので、感謝の気持ちも込めて、作中のハナやタロには穏やかな日々を送ってもらいたいと思っていたはずなのに、彼らはダンジョンを攻略したりと活躍していましたね。
初めて文章を書いたので、読みづらかったり、表現が分かりづらいところが多々あったかと思います。一話更新するごとに増えるアクセス数は、私にとって確かな励みとなり背を押してくれました。読み続けてくれた読者様には感謝しかありません。
さて、次回の閑話をもって、アサヒたちのお話は終わりを迎えます。
最後までお付き合いいただけると嬉しいです。
ご愛読ありがとうございました。




