【閑話】兄からの手紙〜ヤヨイ編〜
『親愛なる妹へ
このたびは熱い気持ちのこもった手紙をありがとう。
さすがヤヨイだ。お前の言うとおり、近々俺には可愛い孫ができるだろう。
孫とは物理的な距離があり、なかなか会うことは叶わないと思っていたが、偶然にも近々ウォルター街へ視察に行くことになった。
ここまで話せば、優秀なお前なら分かるだろう。
家族水入らずの時間を楽しみたい。
絶対にウォルター街へは来るな。
追伸
久しぶりに、お前の顔も見たかったのだが、今回は諦めよう。
これは苦渋の決断だ。
兄より』
グシャリッ…
ヤヨイはわなわなと体をふるわせながら、読み終えた手紙を握りつぶした。
「何度読んでも納得できないわ…」
「ヤヨイ様、お声を出してはバレてしまいますよ」
マーサに小声で話され、ヤヨイはハッとして辺りを見回した。
ここはウォルター街にある貴族御用達の高級ホテル。
ロビーではリオがアサヒを連れて、ロンが来るのを待っていた。
「ヤヨイ様。アサヒ様の無事も見届けましたし、そろそろ…」
「分かっているわ。だから本当は堂々と出ていきたいところを、こうして身を潜めているでしょう?けど、そうね…ここにいても虚しくなるだけだわ」
今回ばかりは大人しく帰ろうと席を立ち、ホテルを出ることにした。
遠くで「はじめまして、ロンお祖父様!」と話すアサヒの声が聞こえた気がしたが、デレデレしたロンの姿を見るのは悔しくて堪らないので、決して振り返るまいとドアを押し開けると…
「…っきゃあ!!!危ないじゃない!」
街を行き交う人の波にぶつかりそうになり、半ば八つ当たりで文句を言うと、「ヤヨイ様!どうしてこちらに?」と、目の前にいたのはランディであった。
「あら、ランディ。あなたこそ何をしているの?」
「街の見回りをしておりました!」
「そう、なら今から私のお買い物に付き合ってちょうだいな」
「は…?ですが自分には任務が…」
「兄に孫ができたからお祝いの品を贈りたいの。ランディには荷物を運んでほしいのだけど」
「なんと!!モーソン家に二人目のお子様が生まれましたか!!ぜひ、お手伝いいたします!」
大きな誤解が生じたが、そんなことはお構いなしだ。何かあっても、仲間はずれにしたロンが悪いということにしておこう。
ヤヨイはランディを引き連れ、街のショッピング通りへと向かうのだった。




