リオのわがまま④
「そうか。そうか、そうか…」
リオの声がどんどん残念そうに沈んでいく。
「リオ?」
「いや、うん。なんとなく分かってた。アサヒが王都に来ないだろうってことは…」
(もしかして、リオはいっしょに来てほしいって、思ってくれてた…?)
「聞いてもいい?アサヒはどうして、ここに残ろうと決めたの?」
「うん、あのね。私、みんなのためにできることを探したいと思ったの。そのために、12歳になったら魔法学校に行こうと思ってるんだ」
「魔法学校に?」
「うん。魔力測定をして、自分にはたくさんの魔法を使える可能性があるんだって知ったの。その中にはきっと、みんなの役に立ったり、助けになる魔法もあると思う。だから、私は魔法のことを勉強したい」
目を輝かせながら話す姿は、昨日とは打って変わって、やる気に満ちていた。
(魔法のことを知りたいなら、お祖母様やマーサといた方が、確実に近道になりそうだ…)
そうは言っても、残念な気持ちは抑えられない。
「今のまま王都へ行ってもリオの足手まといになってしまうし、ハナとタロにとっても、成長するまでここにいた方が安全だと思ったの。それにね、学校に通うには学費も必要でしょう?冒険者ギルドのクエストをたくさんこなして、お金も稼ごうと思って」
リオは突然のお金の話に、片手で支えていた顎をガクンと落とした。
学費なんて必要ないに決まっている。何せアサヒはモーソン侯爵の娘になるのだから。
それに、ヤヨイとマーサから指導を受けた子どもなんて、魔法学校は学費を無償にしてでも入学してほしいことだろう。
「学費のことは、まだ先のことだから今度話をしよう。そうか。うん、分かったよ」
リオがそう言うと、ずっと大人しくしていたハナが我慢できずに話しだした。
「リオ、どこか行くのかニャ?」
「リオさん、お出かけですか?」
お口にチャックの限界がきてしまったようだ。
「そうだよ。僕はもうすぐここを出ていく。しばらくのお別れだ」
お別れという言葉に、胸がキュッとなった。
「リオがいなくても、ハナがアサちゃんを守るニャ」
「ぼくは強いです!心配ないです!」
ふたりなりにリオに激励を飛ばしているのか、はたまた何も考えていないのか。
「頼んだぞ。何があっても、どんなものからもアサヒを守るんだ。ふたりなら出来るな?」
「当たり前だニャ!!!」
アサヒはふふっと笑みをこぼした。
「リオ、ありがとう」
リオは腹をくくったようで、ふぅ…と息を吐いた。
「アサヒ、明々後日に一日、時間をもらえないかな?僕も休暇が取れそうだから、モーソン侯爵に挨拶に行こう。ここに残るのならしばらく関わることは少ないだろうけど、それでも家族になるんだ。一度顔を見せた方がいいだろう」
「それは大丈夫だけど…」
アサヒの戸惑いはもっともで、モーソン侯爵領は一日で行けるような場所ではない。
「実はその日に、モーソン家はご家族揃って、ウォルター街に来訪されるんだ。アサヒに会うために」
(!??)
どうやらリオのわがままはまだ続いていたようだ。




