リオのわがまま③
その日の夜、アサヒはリオの帰りを待っていた。
普段であれば、とっくに寝ている時間であるが、昨日はみっともない姿を見せてしまったので、謝りたい気持ちもあった。
ただ今日に限って、ハナとタロが寝付いてくれない…
「ハナ〜、明日もビャッコ様のところに行くなら、そろそろ寝た方がいいんじゃないかな?」
「ニャ?ハナはまだ眠くないニャ!」
「そ、そうなの?タロはもう眠いよね?おやすみなさいしたいよね?」
「うぅ?ぼくは強いです!眠いのにも負けないです!」
「えぇ…?なんでぇ?」
どうにかふたりをベッドに連れてきたが、今度はアサヒをしっかり掴んで離してくれない。
「アサちゃんもいっしょにおやすみするですー!!」
「タロ、そうだニャ!離しちゃダメだニャ!!」
ふたりを寝かし付けたあとに、椅子に座ってリオとゆっくり話をしたかったけど、これは観念するしかなさそうだ。
まだ帰ってくる様子もないし、今日は先に寝よう。
アサヒはベッドに上がり、壁を背もたれに寄りかかった。
「ほら、もう寝るよ。ハナもタロもこっちにおいで」
ふたりは喜んでアサヒの膝へ上がってきた。
アサヒは順番にふたりの背中を撫でると、グルルルルル…と喉を鳴らす音が聞こえてきた。
(ほんとに、いつまでたっても可愛いなぁ…)
ふたりを癒やしているようで、その実癒やされているのは自分であったりする。
ふたりを撫でながら、つられてウトウトと目を閉じはじめたころ、コンコンコン…と部屋をノックする音がした。
(リオが帰ってきた…!)
ハナとタロの体がビクビクッと反応し、またしてもしっかりと目を覚ましてしまったようである。
「リオ、おかえりなさい」
「ただいま」
昨日のこともあり、リオは若干気まずそうだ。
「なんだ、ハナとタロもまだ起きてたのか。珍しいな」
「タロは眠いのにも負けないです!」
「そうか。でも、眠いなら寝ていいんだぞ?強くなるには睡眠も大切なんだ」
「うぅ…!?」
「タロ、落ち着くニャ!それも一理あるということニャ」
「なんだ、ハナは分かってたのか。じゃあアサヒに甘えたかっただけだな」
「う、うるさいニャーーー!!!!!」
ハナはリオに飛びかかるが、首根っこを捕まれその手はリオに届かない。
「ほらほら、もう寝るぞ」
リオはそう言って、躊躇なくベッドに上がり込んだ。
「リ、リオ…!!寝る前に少し、話があるんだ」
アサヒは、リオの寝間着を遠慮がちに掴んだ。
「えっと、昨日はみっともないところを見せてごめんね」
「アサちゃんがみっともないことなんてないニャ、リオが悪いに決まってるニャ」
「リオさんが悪いですか!それはだめなのです!」
これではいつまでたっても話が進まない。
「ハナ、大事な話だから少し静かにしてて。タロも、お口にチャックだよ!」
「うぅ…?チャックは何ですか?」
ハナはタロの口元を両手で塞いだ。
「お口にチャックだニャ」
タロは黙って、コクコクッと頷いた。
「それでね、リオ…」
アサヒはリオに向き直り、話を続けた。
「私は、ここに残ろうと思うの」
リオはアサヒの決死の表情を見て、「そうか」と一言つぶやいた。




