リオのわがまま②
「リオには養子の話はされたのですが、変わらず生活していいとも言われたんです」
「そうなの。つまり、養子になる以外はアサヒさんの好きなようにしていいと…」
ヤヨイは考えを巡らせた。
そして、大きくため息をついた。
「やだわ…私には、二人の考えが分かってしまったわ…」
「えっ…?本当ですか、ヤヨイ様」
「えぇ。そうね、これが最善といえば最善なのでしょう」
「ヤヨイ様、私にも教えてくれませんか?何も知らないままはイヤなんです」
ヤヨイはアサヒに向き直り、
「もちろん、お話するわ」と言い、アサヒの手を握った。
「まず、今のアサヒさんの立場はとても危ういわ。魔力が絶対のこの国でその魔力量、貴重な回復魔法の使い手で、その容姿…」
(黒髪が珍しいのかな…)
街に行ったときも黒髪の人はいなかった。
「出生が不明なところも孤児と判断されて、良くて国にいいように使われ、悪くて人身売買の商品になる可能性が高いわ」
ゾクリと背筋が凍った。
ここは日本ではないのだ、格差や階級もあるし、違法とされているが奴隷だって存在する。
貴族であったヤヨイですら、魔法の素質が分かった途端に学校へ入れられ、今の今まで魔術師として国の役目を担っていたのだ。
ヤヨイにとっては貴族令嬢としての華やかな生活よりも、戦場の方が性に合っていたが、誰しもがそうとは限らない。
ヤヨイは、アサヒにはやりたいことを自由に選んでほしいと思った。そしてリオも、同じ考えだったのだろう。
「侯爵家の庇護下であれば、まず人身売買という事態は免れるわ。ましてや家族となれば、手を出した方が痛い目を見るでしょう。そして、もしその魔力を国のために存分に生かせと勅命が出たとしても、王国騎士団と密に関わりのあるハウエル家よりは、宰相という立場のモーソン家の方が、国へ意見ができるのは確かだわ」
「それは…つまり…」
すべてはアサヒを思ってのことだったのだ。
「リオもモーソン家も、どこから来たのかも分からない、こんな私を守るために動いてくれた…ということでしょうか…」
「ロン兄様のことですもの、絶対にこの話を聞いてアサヒさんを見に来たはずよ。もしかしたら私たちが出会う前に、アサヒさんのことを知っていた可能性すら感じるわ。街でのお買い物も見られていたのかしら…疑いだしたらきりがないわね。どちらにしても、リオが私よりもロン兄様を頼ったことがとても悔しいわ!」
ヤヨイは自分が頼られたかったのか、悔しい気持ちを隠さず顔を歪めているが、実際のところ、モーソン家の協力を得られたのは、アサヒがヤヨイの信頼を得ていたことが大きいだろう。
アサヒはというと、事の次第を知り、胸が熱くなるのを感じていた。
そして、感謝せずにはいられなかった。
この世界で信用できる人たちに出会えたことに、その人たちに。
リオ、ランディ、ヤヨイ様、マーサさん、モーソン家。
ビャッコ様も精霊たちも見守ってくれて、ハナとタロはいつもそばにいてくれる。
いつも守られてばかりだ。
(ただ守られるだけじゃなくて、彼らのためにできることをしていきたい)
彼らの気持ちに応えたい。
そんな思いが芽生え、アサヒの気持ちを突き動かした。
「リオも、初めから全てを話していればいいのに、後ろめたい気持ちもあったから話せずにいたのね」
「え…?」
「騎士団が例外なだけであって、本来は貴族と平民が関わることはないわ。平民が貴族に気軽に話しかけようものなら不敬と見なされるし、平民を卑しいと思っている貴族は実際に存在するわ。リオは、自分が貴族という立場であっても、アサヒさんを手放したくなかったのね。あれこれ考えて出した結果が、最善策に繋がったというだけの話よ」
「そうですか…私も、リオと話せなくなるのはいやです」
たとえ一時離れることになっても、リオと話せなくなるなんていやだ。これからだって会いたいし、それが当たり前にできると思っていた。
だけど、この世界では立場が違えば会うことも話すこともできないのだと、ヤヨイの話を聞いて初めて知ったのだ。
「だから…リオがたくさん考えてくれて、嬉しいです」
ヤヨイはアサヒの言葉を聞いてふふっ…と笑みをこぼした。
そして、握っていたアサヒの手を両手で包み込んだ。
「めんどくさい世界でしょう…?アサヒさんがこれからの人生を目一杯楽しめるように、サポートさせてちょうだいね。それをこれからの楽しみにしようと思うの」
ヤヨイはにっこりと嬉しそうに微笑んだ。
なんて心強い友人だろう。
「ありがとうございます!」
不安だった気持ちはどこかへ吹き飛び、とびきりの笑顔でこたえた。




