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教会の魔力測定①

 リオとランディが精霊の森を出るまで、あと一週間。といっても、リオから直接話を聞いていないので、なんとなく自分からも切り出せないまま今に至ってしまった。


 今日は、リオに連れられ、ウォルター街のとある目的地へと向かっていた。


「アサヒ、着いたよ」


 街の中心から少し歩いたそこは、街でただ一つの小さな教会であった。

 リオが教会の扉を開けると、中には神父が一人おり、一礼して私たちを出迎えた。


「お待ちしておりました、レナード様」


 リオに手を引かれて、神父が案内した奥の一室へと進む。


「神父には事前に連絡しておいたんだ。普段なら教会には誰でも入れるんだけど、今日は、僕たちしかいないから、安心して大丈夫だよ」


 神父と私たちしかいない静かな空間は、教会の厳かな雰囲気を一層増していた。

 

 神父に案内された、部屋というには狭い一室の正面の壁は一面ステンドグラスがはられ、日の光で両脇の壁や天井、床を色鮮やかに染めていた。


 室内の中心には木製の棚に立てられた石版があり、ウィンス語でも日本語でもない、見たことのない言語で文字が刻まれている。


「リオ、この部屋は…?」

「ここは、魔力を測定する部屋だよ」


 リオは私の背中をそっと押し、石版の前まで行くように促した。


「前にこの国の子どもたちは7歳から学校へ行くと話したけど、入学前には教会で魔力を測定するのが通例なんだ。この石版に手を当てると、自分の適正な魔法の属性を知ることができる。この測定で今後の進路を決める子どもも多いんだよ」

「子どもたちは自分のステータスを見れないの?」


 ステータスを見れば魔法のレベルも確認できるし、この測定は必要なんだろうか。


「ステータスは誰でも見れるわけではないんだ。魔法の素質がなくて見れない子もいるし、一部だけ見れる子もいる。だから、ここには自分の可能性を見つけに来る意味もあるのかもね」


 もしかしたら、私が見ているステータスもほんの一部で、私の全てではないかもしれないということだろうか。


「リオ、石版に手を置いてみてもいい…?」


 リオは室内に私たち以外に誰もいないことを確認して頷いた。


 指先から手のひらを石版に押し当てると、ひやりとした温度が伝わってきた。


 2〜3秒すると、石版を中心に360度、光の粒がブワッと広がり、それらは徐々に文字をかたどっていった。


 無秩序に浮かびあがる光の文字は、『火魔法』、『水魔法』など、ステータスと同じ内容も見て取れたが、そこにレベルの表記はない。初めての魔法である『回復魔法』の文字は『光魔法』の派生になっていた。

 見渡せど使ったことのない魔法の文字で溢れかえっており、全てを読み取るのは難しそうだ。これだけの魔法を、生涯使いこなせるようになるのかは疑問であるが、自分では気付いていなかった自分の"可能性"が目の前に広がっているように思えた。


(『祝福』に…『聖獣ビャッコ』『森の精霊』の文字が…)


 色々な人たちが私のことを見守ってくれていたことにも気付けてよかった。


 しばらくすると、光の文字はキラキラの粒に戻り消えていった。


 私は目の前で起こった現象に「ほわぁ…」と声を漏らし、しばらくぼうっと立ち尽くしていた。

 すると、リオがジャケットの内ポケットからベロア調の布の小袋を出し、何かを取り出すと、私の前に差し出した。

 私の視線はリオの手元へ動いた。


「…ネックレス?」


 それは、グリーンの小さな石が付いた、細めのチェーンのネックレスだった。


「子どもが魔力の測定を終えたら、家族はその子の幸せを願ってお祝いを贈るんだ。これは僕からアサヒへ…受け取ってくれる?」


 それは、私が思っているよりも高価なものなのだろう。細く繊細な作りのアクセサリーは、職人が一点一点、丁寧に作ったに違いない。

 けど、そんなことを言って遠慮するのは、リオの気持ちを裏切ることのように思えた。

 リオは、私を『家族』と言ってくれたのだ。


「ありがとう…リオ」


 リオは私の正面へ鑑み、優しく微笑んだ。

 このやり取りは少しこそばゆい。


(受け取っていいのかな…)


 すると、リオは私の首に手を回し、髪をかき上げた。


(!!?)


 分かっている、ネックレスを付けてくれてるのは分かっている。

 ただ、自分から抱きつくのとは全く違う姿勢と距離に、恥ずかしさが込み上げた。


 リオは左手を私の肩に添え、右手で私の首にかけたネックレスをすくいあげると、石に優しくキスをした。


「アサヒを守り、幸せを導きますように…」


 そのまま、視線を私の瞳に移すと、

「似合ってる。よかった」と満足げに言った。


 私はリオの肩に抱きつくように顔をうずめ、耳まで赤くなったみっともない顔を必死に誤魔化すのだった。

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