リオの帰宅④
「うぅぅ…ううぅぅ…」
(く…苦しい…!!)
私は息苦しさで目を覚ました。
顔の上にハナが、胸の上にはタロが覆いかぶさっているのはいつものことであるが、今日は一段と重みを感じる。
私は顔をゆっくりと左右に振り、ハナが顔の上からずれ落ちると目を開いた。
すると、隣には見覚えのある顔が…
「リオ!?」
横にはリオが、私をがっちりと抱え込んで眠っていた。
(え、え、なんでリオがいるの!?)
部屋を見渡すが、確かにここは私の部屋だ。
「んん…」
リオの瞼がゆっくりと開き、寝起きで潤んだ緑の瞳と目があった。
「アサヒ、おはよう…」
リオはまだ寝ぼけているのか、目を細めると再び眠りについた。
(うわぁぁぁぁ)
久しぶりに間近に見たリオの顔はやはり強烈だ。
「リオ、起きて!なんでリオがここで寝てるの!?」
「ん?うん…アサヒ…右手を見てごらん…」
(右手…?)
私の右手は、リオの胸元をガッチリと掴んでいた。服が皺だらけなことから、恐らく一晩中掴んで離さなかったのだろう。
「アサヒ、昨日は途中で寝ちゃったから、ベッドに運んできたんだけど、離してくれなくて」
リオは困り顔であるが、どこか嬉しそうである。
私は胸の上で寝ているタロをそっと脇へ降ろし、少しずつ昨日の出来事を思い起こしていた。寝ぼけていたので定かではないが、恐らくリオは、お風呂もしっかり入れてから着替えさせ、寝かしつけたのだろう。
なぜかというと、同じような経験を初めて屋敷を訪れた日にしているからだ。
(あのときも、善意であれこれとお世話をしてくれたから、めちゃくちゃ恥ずかしかったけど何も言えなかったんだよね…)
私は前に屈み込み、布団にポスンッと、顔を埋めて隠した。
「アサヒ…?」
リオはそんな私の顔をどうにか覗き込もうと前のめりになり、ベッドがギシッと音を立てた。
私は布団に突っ伏したまま、ぶっきらぼうに口を開いた。
「…リオ、ありがとう」
リオはキョトン顔からやがて柔らかく微笑み、私の髪を撫でた。
「顔を隠しているのは、勝手にいっしょに寝て怒っているから?」
「怒ってないよ。怒るわけない…」
私がガバりと勢いよく顔を上げたため、リオは少し後ろへよろけた。
リオは私のむっすりとした顔を見て、思わず吹き出した。
「ふ…、はは…!アサヒ、顔が真っ赤だよ」
「………」
「そっか。けどよかった、怒ってなくて。実は、今日からお祖母様が寝室を使うから、僕の寝る場所がなくて困ってたんだ。ベッドが狭くなって申し訳ないけど、少しの間我慢してもらえるかな」
(!!?)
「寝る場所がないって、もう一部屋の客室は?」
「あぁ、それは…」
リンゴーーーン…
鐘の音にハナとタロの耳がぴくぴくっと動いた。
「あれ、早いな。もう来たのか」
「お客さん?誰か来る予定だったの?」
リオは起き上がり、ベッドから降りた。
「お祖母様の侍女のマーサだよ。そういう訳で、客室はマーサが使うから、もう部屋がここしかないんだ。さて、僕はお迎えをしなきゃいけないから、先に行ってるね。アサヒも準備ができたら降りておいで」
「うん…」
リオが部屋から出ていくと、私はベッドで寝ていたハナとタロに抱きついた。
(これからのこと、ちゃんと考えなきゃ…)




