リオの帰宅②
「さぁ、あなたたちもグラスをとってちょうだい。準備はいい?」
リオとランディはヤヨイ様に言われるがままグラスを持った。
「アサヒさん、Dランク昇格おめでとう。乾杯!」
「あ、ありがとうございます…!」
私たちは、各々のグラスを軽く持ち上げた。
ランディは炭酸水を一気飲みすると、身を乗り出して尋ねた。
「ヤヨイ様は一体どこで平民の食事を学ばれたのですか?まさかヤヨイ様が乾杯の音頭を取られるとは思いもしませんでした」
「学ぶも何も、先週まではずっと旅して過ごしていたのよ?レストランの他にも大衆食堂や屋台だって経験したわ」
「さすが、ヤヨイ様です!!」
(ランディ…ヤヨイ様が大好きなんだね…)
私はいつもと違うランディの様子にまだ慣れないでいた。
「お祖母様、さっそくですが、なぜアサヒが冒険者になったのか経緯をお話しいただけますか?」
リオの問いかけにヤヨイ様は手を止め、ふぅ…と一息ついた。
「これは、あなたたちのミスでもあるのよ?」
ヤヨイ様は、深刻な顔でことの経緯を話し出した。
二人でお買い物をしていたらギルドマスターに声をかけられたこと、彼からは、最近精霊の森付近で魔物による被害があり、未だに魔物は討伐されていないとの話があったこと。
「話を聞いていたら、アサヒさんがその魔物を回収していたことが分かったのよ。あなたたちだったら、どうするかしら?」
リオとランディは言葉に詰まった。
二人はアサヒが転生者であることは知らないものの、アサヒの持つ桁外れの魔力に精霊の姿が見えること、何よりも、結界のはられた精霊の森に突如現れたという事実を隠していたのだ。
それはもちろん、アサヒという幼い少女を思ってのことであり、ギルドでその存在を知られることは本意ではないのだ。
「つまり、ビャッコが倒した魔物をあなたたちがしっかり回収していれば、何の問題も起きなかったのよ。これは職務怠慢だわ」
ヤヨイ様に注意され、ランディは顔を青くした。
「も、申し訳ありませんでした!!」
ランディとは違い、リオはあくまでも冷静だ。
「確かに、暴徒と化した魔物の死体を放置しておくのは、誤りでした。精霊の森に住む魔物が誤って食べる前に、アサヒが回収してくれたことは幸いでした」
ただ転生者であることを誤魔化すために冒険者ギルドの登録をしただけなのに、とても大事になってしまった。そもそも、私が魔物を勝手に持ち帰ったのが原因なのに、ヤヨイ様の口ぶりだと二人の責任にすり替わっている。
私はヤヨイ様と目を見合わせた。
(あれ…?)
よく見ると、ヤヨイ様は今にも吹き出しそうなのをこらえて、体をプルプルと震わせていた。
(ヤヨイ様、確信犯だ………)
「そうでしょう?では、この話はおしまい。せっかくみんな集まったのだもの。楽しいお話をしましょうよ」
ヤヨイ様はにっこりと笑顔でこの場を収めた。
ヤヨイ様は団長だったのだ。団員を言いくるめることなど、お手の物なのであった。




