【閑話】精霊の森のダンジョン〜ハナとタロ編〜④
タロは体内の魔力が激しく巡りだし、フッと意識を失った。そして、そのまま両足を強く踏み込み、牙を剥き出しにし、ヴッ、ヴッと唸りだした。
「ヴッ…ヴヴッ…ヴォォォォル!!!」
タロの咆哮が響き渡った。
その衝撃音で草花は薙ぎ倒され、壁面にはヒビが入り、瓦礫がボロボロと剥がれ落ちていく。
草原に身を隠していたホーンラビットのほとんどは、体内の魔石が打ち砕かれその場に倒れた。かろうじて生きているものも、気を失い意識はない。
「うぅ…ぼくの声…ママみたいな声でした…」
タロは我に返り、改めて先程の自分の声に驚いた。
「タロ、すごいニャ!!」
「ハナさん…」
ハナはタロのそばへと駆け寄った。
「ハナさん、大丈夫ですか?突撃されましたか?」
「なんともないニャ。逆方向に飛びながら受け身もとったニャ」
タロはホッとし、その場に座り込んだ。
(ハナさんはすごいです)
「タロのおかげで、魔物を全部倒せたニャ。今日のタロは頑張ったニャ」
「うぅ…」
タロはハナをジッと見た。
ハナの背中の毛はコウモリにつつかれ所々抜け落ちているし、ホーンラビットの突撃も、受け身をとったとしても小さいハナの体にはそれなりの衝撃であっただろう。
(ハナさんはぼくのせいで傷だらけなのに、ぼくを褒めてくれます…)
ハナは、タロの額をペロリとなめた。
「ふたりで目標達成だニャ」
ハナにとって、自分が怪我をしたことなど、関係ないのだった。ふたりでアサヒを守ると約束した日から、大切なことはそれだけなのだ。
タロは、丸いお手てでおでこをきゅっと押さえた。
「…はい!」
突然、宝箱から矢のように光が上がり、上部で弾けると、弧を描きながらハナとタロのいる中央の丘を包み込んだ。
「ニャニャ…!なんだニャ…!」
「うぅ…!?」
ヴンッ!
ハナとタロはその場から姿を消した。
「うニャ…!!」
「わわわ…!!」
トスンッ、ドスンッ!!!
「どこに落ちたニャ…」
ハナが辺りを見渡すと、そこは精霊の森のダンジョンの入り口であった。
ハナとタロの他に、討伐した数十体のホーンラビットも転送されていた。
「上出来ではないか」
茂みからビャッコが現れた。
「ママ!!」
「よく逃げ帰らず成し遂げたものだ」
ビャッコは感心した様子でふたりを褒めた。
「ママ、ぼく、大きな声で魔物倒したです!」
「そうであったか。ハナはどうだ?」
「ハナは…」
(アサちゃんにあげる魔石や薬草は手に入らなかったニャ。けど…)
「タロと攻略したことが一番だニャ」
ハナは満足げに答えた。
「そうであったか」
ハナには一瞬、ビャッコが微笑んだように見えた。




