【閑話】精霊の森のダンジョン〜ハナとタロ編〜②
湖から数十メートル北へ進んだ場所に、2メートル四方の洞窟の入口はあった。
「タロ、準備はいいニャ?」
「ハナさん、ぼくが先に進みます!」
「ニャ」
「ママ、行ってきます!」
ビャッコは何を言うでもなく、ふたりの様子を見守っていた。
いつも、仲間がダンジョンの攻略をめざすときの、やる気と期待に満ちた表情を見て、こちらも胸が昂ぶったものであった。
さて、幼いふたりは、どう乗り越えるのか。
ペタ、ペタ、ペタ…
湿り気を帯びた道に肉球が張り付き、歩くたびに音が響く。
入口から数メールの場所でもすでに暗闇の中であったが、幸いにもハナとタロは夜目がきくため、そこで狼狽えることはなかった。
ペタ、ペタ、ペタ…
更に奥へと進んでいくと、タロは壁の一部がキラリと光ったように感じて、足を止めた。
「何かあったニャ?」
「ハナさん、壁が光りました。ずっと奥も、キラキラしてます」
ハナもタロも、暗闇の中を見渡した。
すると、確かに壁面が所々キラリ、キラリと光っているようだ。
「うぅ…気持ち悪いです」
「ニャ?このキラキラかニャ?」
「ジロジロ、見られているみたいです」
「ジロジロ…ニャ…」
ハナはもう一度、辺りを見渡した。
キラリと光った所をじっと見ていると、2つに並んだ光がハナの視線とぶつかった。
「…ニャ!!目があったニャ!!」
ハナはすかさず両目をギンッと光らせ、妖術をかけた。
何物かの目の光は付いたり消えたりしながら、木の葉が舞うようにユラリユラリと宙を舞い、タロの足元にポトリと落ちた。
「わわわわわ……!!」
タロは驚き、毛を逆立てた。
それは、タロが初めて見る、ネズミのような体に黒い翼を持つ生き物であった。
「お、お、落ち着くニャ!!コウモリだニャ!!」
「うぅぅ…気持ち悪いです」
足元のコウモリは、ハナの妖術で気を失い泡を吹いている。
タロはもう一度、恐る恐る辺りを見回した。
壁を覆い尽くすキラキラの光は、ギラリ、ギラリと光るコウモリの目であった。
「うぅぅ…気持ち悪いです…見ないでほしいです…!!」
タロは逃げるように洞窟の奥へと駆け出した。
「待つニャ!ひとりは危ないニャ!!」
「うぅ…!」
ハナに呼び止められ、タロは後ろを振り返ったが、よそ見のせいで足元の小岩に躓いた。
ガツンッ…!
「ぅう…!?わわわ…!!」
体勢を崩した勢いでコロンと転がったのを皮切りに、コロン、コロン…コロコロコロコロと、どんどん奥へと転がっていく。
「わわわわわ……!!」
「ニャーーー!!またかニャ!!!!!ちょっと待つニャ!!ハナを置いていくニャーーー!!」
ハナは急いでタロの後を追いかけた。すると、身を潜めていたコウモリの大群がその後を追ってきた。
「ニャニャ…!コウモリは来なくていいニャ…!!」
大群に妖術をかけるが、数が多過ぎて全てを視界に入れることができない。
ハナは諦めて逃げることに専念した。
タロが勢いよくコロコロコロ…と転がっていると、一瞬フッと体が浮き、すぐにトスンッと真下に落ちた。
どうやら、1メートル程の段差から落ちたらしい。
「うぅ…」
タロはようやく止まった体を起こし、辺りを見回した。
「…?」
明るいが空は見えない。
そこはドーム状の壁面に囲まれていて、目の前は見渡す限り草原であった。




