ウォルター街
ご機嫌のヤヨイ様に連れられ、私は森から一番近い街『ウォルター街』に来ていた。
カランカラン…
ヤヨイ様はメインストリートにある洋服屋のドアを開けた。
「ごめんくださいな」
「はーい!いらっしゃいませ。あら、ヤヨイ様!いつお戻りになられたんですか?」
「つい昨日戻ったのよ」
洋服屋の女性店員はヤヨイ様の知り合いなのか、とても気さくな様子だ。
「今日はこの子のお洋服を探しにきたの。何着か見繕っていただけるかしら?」
「かしこまりました!お洋服はパーティー用ですか?それとも普段着をお求めですか?」
「そうね、ドレスも普段着も戦闘服も、一通り用意してちょうだい」
女性店員は慣れた手付きで私を採寸し、店内から次々と洋服を持ってきた。
「お嬢さんのサイズだとこちらがご用意できますよ」
「あら、なかなかいいじゃない!すべていただくわ」
「ヤヨイ様…!!」
私はヤヨイ様の手を引き、コソッと話しかけた。
「お伝えしていませんでしたが、今、持ち合わせがなくて…」
「アサヒさんったら…!今日は、私に付き合っていただいてるんだもの。お礼として受け取ってくれればいいのよ」
「そ、そんなわけには…!!」
ヤヨイ様はさっさとお会計をすまし、
「荷物は後日、ランディにあずけてちょうだいね」
と店員に言い残し、お店を出て行った。
次に案内されたのは、洋服屋の隣にある食器屋だった。
「いらっしゃいませ〜。これはこれは、ヤヨイ様ではないですか」
「ごきげんよう。店内を少し見させていただくわね」
「ごゆっくりどうぞ」
食器屋の店員もヤヨイ様の知り合いのようだ。
ヤヨイ様は店内の奥の一角にある、ナチュラルテイストの食器コーナーで足を止めた。
「屋敷にある食器は陶器ばかりでしょう?ハナちゃんとタロちゃんには、木製か金属製のものがいいと思うのだけど、どうかしら?」
「実は、タロがいつか食器を割るんじゃないかと心配でした…木製の食器の方が、森育ちのタロに合っている気がします」
「そうね、大きさ的にはここらへんかしら…あら、これなんてどう?」
ヤヨイ様が持ってきた木製の食器は、横長の楕円に三角の山が2つついた、猫の形にくり抜かれたものだった。
「可愛いです!ハナとタロ、お揃いにしてあげたいな…」
私は食器の値札を覗きみようとしたが、ヤヨイ様の手に阻まれてしまった。
「もちろんこれも、屋敷で良いこにお留守番しているふたりに私からのお土産よ」
「ふふ…、ありがとうございます」
食器を買った後は、ヤヨイ様おすすめのカフェで軽食を食べたり、雑貨屋さんを巡ったり、街を散策した。
ヤヨイ様は行く先々で声をかけられ、皆と軽い挨拶を交わしていた。
「ヤヨイ様はこの街にお知り合いが多いんですね」
「そうね。夫がこの街の元領主だったから、よく知られているかもしれないわね」
「領主ですか!?」
「あら、言ってなかったかしら?ちなみに、今は息子が領主を継いでいるわ」
どうりで、よく声をかけられるわけである。




