表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/65

【閑話】異世界へ転生~ヤヨイ編~④

「ヤヨイ様が戻られたぞ…!!」


 ホワイトタイガーに加勢していた団員たちのもとへ戻ると、皆、安堵の表情を見せた。


「みんな、よく耐えてくれたわ」


 ヤヨイはボールスに抱えられたまま、団員たちを労った。

 命に別状はないものの、ほとんどの者がヘドロの酸で負傷していた。


(皆を完治させる魔力はもう残ってないわね…)


 しかし、何も言わずとも、団員たちが期待の目を向けているのが分かる。

 なぜなら、これまでヤヨイが同行した戦場において、負傷して帰還したものは誰一人としていないからだ。


『救いを当然と思わせるな』


(ウィル…あなたの思いやりだったのね…

 今になって、言葉の意味に気付くなんて…)


「ボールス、私を王都まで抱えることになったらごめんなさいね。先に謝っておくわ」

「ヤヨイ様…?」


 ヤヨイは自分に残されたわずかばかりの魔力で回復魔法を試みた。


「エリアヒール…!」


 その場にいる団員とホワイトタイガーを囲むように広範囲に回復魔法をかける。

 団員たちの皮膚の炎症が、少しの火傷の跡を残し、引いていく。


 ヤヨイはとうとう、ボールスにもたれかかることしかできない状態になり、振り絞るように団員たちに話しかけた。


「みんな…ごめんなさいね…王都に帰ったら、必ず治させていただくわね…」


(私は女神でも、聖女でもないのに…

 私の(おご)りが、皆の期待を裏切ってしまったわね…)


 ヤヨイは自分が不甲斐なく、情けなかった。

 しかし、ヤヨイの姿を見て、団員たちはまた違った思いを持った。


(そんなお姿になってもなお、俺たちを救おうとしてくださるのか…)


(我々のどこかに、負傷してもヤヨイ様が治してくれるという甘えがあったのではないか…)


(自然治癒で事足りる傷にも関わらず、回復魔法に頼ってはいなかったか…)


 ボールスは団員たちの変化に気づき、また気を引き締めた。


「ヤヨイ様、参りましょう。この先にウィリアム様がお待ちです」

「そうね…先を急ぎましょう…」

「皆、王都に帰る準備を!」 




 最初に魔物に遭遇した地点へ戻ると、団員がこちらを見つけ、駆け寄ってきた。


「ヤヨイ様!!お待ちしておりました!!ボールス、ヤヨイ様をこちらにお連れしてくれ」


 随分と慌てたようすで、木の影へ案内されると、そこにウィルが横たわっていた。


「ウィリアム様!!!」


 ボールスが大きな声を上げた。

 ボールスに抱えられているヤヨイからは、ウィルの姿が見えない。


「ボールス…?ウィルはどこ…?」


 ボールスはヤヨイを横たわるウィルのそばへ降ろし、上半身を抱え支えた。


「ウィル…!?」


 ウィリアムの半身は焼けただれ、皮膚の所々からは骨が見えている。


「ウィル…!!一体何があったの!?」


 ウィルのそばで待機していた団員が声を震わせてヤヨイに話しだした。


「ウィリアム様は…!!私たちをかばい…!!」

「ウィリアム様の半身が魔物に飲み込まれそうになったところを…私たちが引きずり出しました…」


 そう話す団員たちの腕もまた、ひどいただれようであった。


「……ョィ…」


 微かに、ウィルから声が発せられた。


「ウィル…!!ヤヨイよ…!!ウィル…!!」

「ヤヨイ…君のおかげで、この森は…この国は守られた…ほんとうに、ありがとう…」

「ウィル…!いいのよ、そんなことは…あぁ…!!どうしたらいいの…!!ウィル…!」


 ヤヨイはどうすることもできない状況に、パニックを起こしていた。


「ふ…ふふ…」

「ウィル…?」

「ヤヨイ…俺の、一番の自慢は……君が、初めて…魔法を…使った相手が…俺だった…ことなんだよ…」

「ウィル…?何を…」

「あのときの君ってば…顔を真っ赤にして……俺の名前を、必死に呼ぶんだ……ふ…ふふ…」

「な、なによ…必死にもなるわよ…!当たり前でしょう?!」

「あんな可愛い姿を見たら……そりゃぁ…好きになるだろう……」


 ヤヨイの眼からは、ボロボロと涙が落ちていた。


「ヤヨイ…」


 同行した10人の騎士が、ウィルを囲むように立ち、敬礼している。


「みんな、無事だな…さすが、君だ…」


 ウィルの視界が霞んでいく。

 それが、視力が失われたからなのか、涙でなのか、ウィル自身にも分からなかった。


「ヤヨイ……」

「………ィル…………」

「君は…俺の誇りだ…これからも……君の思うままに……」


 ウィルの目が静かに閉じていく。


「嫌よ!!ウィル!!ウィル…!!」


 その時、背後から勢いよくやってきたのは湖へ案内してくれたホワイトタイガーだった。


「力になろう。我に名を…!」


 ヤヨイは目を見開いた。


「汝の名は…白虎(ビャッコ)!!」


 従魔の契約が結ばれ、ホワイトタイガーの魔力がヤヨイに共有された。

 ヤヨイはすかさずウィルに手をかざした。


「エクストラヒール…!!!」


 ヤヨイが上級回復魔法をかけると、ウィルの体が一瞬、強い光を帯びた。


 ウィルは、目を閉じたまま動かない。


「ウィル…、ウィル…!!も、もう一度魔法を………」


 伸ばした手をボールスに遮られた。


「ヤヨイ様…」

「ボールス、離してちょうだい…!」

「……………」

「離しなさい…!!!」

「ヤヨイ様…!!死者に魔法は届きません!!」


 ヤヨイはウィルの顔をじっと見た。


(助けたかった…助けたかった……

 助けられなかった…

 ウィル…!!)


「う…ゔああああああ!!!」


 ヤヨイはその場で泣き崩れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ