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【閑話】異世界へ転生~ヤヨイ編~③

 ウィルはヤヨイと騎士団から派遣された10人ほどの団員を引き連れ、森の奥深くへと足を進めた。

 人員不足だが、その他の団員も被災地の救護活動に派遣されているため、少数精鋭で人員を揃えた。


 奥へ行くほど瘴気は濃度を増し、植物は朽ち果てている。

 小動物はその悪気でほとんどが死に、至る所に死体が転がっていたため足の踏み場に迷うほどである。

 脅威にもならない非力な魔物たちは、むりやり上位種へ進化をさせられ体は歪み、その痛みに耐えきれず、今なお、もがき苦しんでいた。


「まるで地獄絵図だ…」


 引き連れた団員の一人がそうつぶやいた。


「みんな、布で口を覆って!瘴気を吸ってはだめよ!」


 ヤヨイが団員に指示を出した。


 ヴヴヴ………


 唸り声が近付いてきている。


「10メートル先に魔物が三体、さらに左奥にニ体を感知したわ!」

「了解!」


 ヴヴヴ………


 ヴヴヴ…ヴヴヴァァァァ!!!!!


 実態が分からないほどのヘドロまみれの魔物が現れた!


「みんな、触れてはダメよ!脚力強化!」


 ヤヨイは魔物に対面した団員に強化魔法をかけた。


「頭部を一撃で仕留めなさい!!!」


 団員は魔物の真上に飛び上がると、ヤヨイの指示に従い首筋に剣を振り下ろした。


 魔物の首が吹き飛び体が地面に倒れると、魔物はヘドロの酸に溶かされ跡形もなく消えていく。


「個々の魔物は強敵ではありません!団員一人でも対応できます!」


 身軽に着地し焦げついた土の上に転がっていた魔石を拾い上げ、団員の一人であるボールスは言い切った。


 奥の二体と応戦していたウィルがヘドロに足を滑らせ魔物を仕留め損ねると、魔物は覆いかぶさるように倒れ込んできた。


「シールド!」


 ヤヨイはすかさずウィルに防御魔法をかけた。


「すまない、ヤヨイ!先に進んで瘴気の発生源を探ってくれ!」

「分かったわ!ボールス、行くわよ!」


 ヤヨイはボールス含む8人の団員を連れて森の奥へ駆けていった。


「100メートル先、数体の魔物が何者かと交戦中よ!状況により加勢しましょう!」

「了解!」


 ヘドロまみれの魔物をどうにか食い止めようと、森の番人であるホワイトタイガーの群れが交戦していた。

 数体はヘドロにより重症を負っている。

 ヤヨイはただちに負傷したホワイトタイガーに回復魔法をかけた。


「あなたたちに感謝するわ!」


 ホワイトタイガーの群れの長がヤヨイについて来いと首をくいっと上げた。


「団員たちに告ぐ!そのままホワイトタイガーに加勢してちょうだい!ボールス、ついてきなさい!」


 ホワイトタイガーの長に連れられ、しばらく走り続けると、一気に視界が開け、一面が霧がかった広場へ出た。

 目を凝らすと、そこにはヘドロの沼と化した湖があった。

 湖からはボコッボコッと気泡があがり、ひどい異臭を放っている。


「ここが瘴気の発生源で間違いなさそうね…」

「はい…」


 ヤヨイとボールスは言葉を失った。


 湖のヘドロからは、到底生き物とは思えぬ風貌の魔物がその身を乗り出し、地を這うようにゆっくりと、しかし確実にその数を増やし森を蝕んでいく。


「これではキリがないわ」

「はい…それに、思っていたよりも広範囲に瘴気が蔓延しています。すでに感知できない距離に魔物が進んでいることも想定されます。数体の魔物を倒したところで、食い止められるとは思えません」


(瘴気を全て浄化するには…魔力はぎりぎりね…)


「ボールス、今から浄化魔法をかけるわ。20秒、私の護衛を頼めるかしら」


 ボールスは、ヤヨイにしては弱気な発言だと感じたが、頼りにされるなんて、光栄だと俄然やる気を出した。


「お任せください。身を呈してでも、20秒間、あなた様をお守りします」


 ヤヨイは頷き、自らにドーム状の結界を張り目を閉じた。

 瘴気がどこまで蔓延しているか探るのは難しい。魔力探知を行い、魔物のいる範囲を探った。


 一定の距離から、魔力が感じられなくなった。恐らく、入口付近と同じように、弱い魔物はすでに死んでいるのだろう。


(これは…森をすべて浄化するようね…)


 ヤヨイは片膝を付き、祈るように集中した。


 ドンッッッ!!!!!


 上空からヤヨイに圧力がかかり、ヤヨイの周りの地面が押し潰されていく。


 ッッッ!!!!!


 圧力が開放されると同時に、一気に森の端まで届くであろう暴風が吹き抜けた。


 暴風とともに、瘴気が払われていく。





「…!!…ま!!ヤヨイ様!!」

「…ボールス、大丈夫よ」


 ヤヨイが目を開くと、湖には精霊が舞い、戯れ合いながら歌を歌っていた。

 ヤヨイはホッと一息ついた。


「浄化は成功しました!!ヤヨイ様!!やりました!!」

「落ち着きなさい、ボールス」


 ボールスは周りを見渡した。湖の周りのほとんどの地面は焼け焦げているが、所々に新芽が芽吹いている。


「ヤヨイ様…湖に輝きが…美しいですね…」


 ボールスの見ている輝きは、おそらく精霊から舞う光の跡だろう。


 ボールスは、魔力切れを起こし立つことのできないヤヨイを担ぎ上げた。


「皆の元へ参りましょう!」

「それでは、お願いしようかしら」


 ボールスは湖を後にし、来た道を戻り駆け出した。

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