謎の貴婦人
明け方にリオとランディを見送り、一眠りしたあとに洗濯物を干そうと玄関のドアを開けると、そこには日傘をさした貴婦人がいた。
「あらあら、ここは私の家のはずなのだけど……」
「………!」
二人の留守中に、まさかこの家に誰か来るとは思っていなかったので、私は状況を理解できずにいた。
「驚かせてごめんなさいね、可愛らしいお嬢さん。リオは中にいるかしら」
貴婦人は少しかがんで私の目線まで視線を落とした。
「す、すみません。リオは今、外出中で……」
「そう、リオはいないのね。困ったわね」
「………」
一瞬の沈黙がとても長く感じる。
「アサちゃん、どうしたニャ」
玄関にハナとタロが駆け寄ってきた。
「ニャ!?何者だニャ!!」
「あら、可愛らしい仔猫ちゃん」
「ハナはもう3歳だニャ!!」
「ハナ、奥に行ってて」
私はハナを隠すように背中に寄せた。
「ぼくも、奥に行くですか?アサちゃんのお手伝いします」
タロが私の足を登るようにお手てをテシテシ当ててきた。
「まぁぁぁ!!!!!」
「……!??」
「あなた、ビャッコの子どもでなくて!?」
「うぅ………!??」
タロはビクッとした勢いで、その場にコロンと転んだ。
ハナはすかさずタロの前に立ち、
シャーーーッ!!!と貴婦人を威嚇した。
「ふふふ。ほんとに、ごめんなさいね。驚かせるつもりはなかったの」
「あ、あの……」
「私はリオの祖母のヤヨイというのだけど、可愛いお嬢さん、あなたのお名前も教えていただけるかしら?」
(リオのお祖母さん!!なんで気付かなかったんだろう。言われてみれば、瞳の色も、笑ったときの表情もリオにそっくりだ…!)
「し、失礼しました。私はアサヒといいます。こっちのふたりは、ハナとタロです。今は、こちらの屋敷で、リオのお世話になってます」
慌てて名乗り、今一度、貴婦人の顔を見た。
瞳は澄んだ緑で、白髪混じりの金髪…
しかし、『ヤヨイ』という名前は間違いなく日本語だ。
「ヤヨイ様…あなたは一体…」
「ふふ。せっかく良いお天気なんだもの。お庭でお茶でもどうかしら?」
ヤヨイ様は私の手を引き、屋敷の裏へ連れて行った。
そこには庭用のテーブルと椅子が置いてあった。
「古いものだけど、まだ使えそうね。彼らに運ぶのを手伝ってもらえると助かるのだけど…」
ヤヨイ様が指差した先には、座った状態で止まっているゴーレムが三体。菜園の種蒔きのときに作った彼らだ。
「やってみます。ゴーレム、テーブルと椅子を木陰に運んでくれる?」
ゴーレムは石を光らせ、動き出した。
三体で協力して、テーブルを運んでいる。
「今、お茶の準備をしますので、ヤヨイ様はこちらでお待ちください」
「ありがとう。そうさせていただくわ」
ヤヨイ様は椅子に腰掛け、懐かしそうに庭先を眺めていた。




