ハナとタロ④
「ハナさん、ぼく、分かりました。ぼくとハナさんにある、大切なものです」
ハナはタロをじっと見た。
(丸いニャ…なんでお兄ちゃんなんて思ったのかニャ…。
この丸っこいのは、かっこいいお兄ちゃんとは、全然似てないニャ)
「ぼくは、とても痛くて苦しいときに、アサヒさんに助けてもらいました」
タロのお腹の一部は未だに毛が生えていない。それほどまでにホーンラビットの角は深く突き刺さり、大量の血を流した。
痛くて、苦しくて、母の助けを呼ぼうにも声も出せず、目はかすみ、そのまま意識を手放すかと思われたそのときに、アサヒの魔力の恩恵を受けた。
「ぼくも、アサヒさんのこと、助けたいです」
「そんなこと、分かってるニャ」
「うぅ…?」
「ハナだって、同じだニャ」
「同じですか?」
「同じじゃないニャ、ハナのほうが、もっと思ってるニャ!!」
「うぅぅ…」
タロは混乱した。
「ハナが言いたいのは…」
「は、はい…」
「これからは、ハナとタロのふたりで、アサちゃんを守るんだニャ」
(ふたりで守る…)
「聞いてるニャ!?」
「は、はい…!」
「それから、ハナのことは、ハナでいいニャ。アサちゃんもアサちゃんだニャ」
「は、はい!」
ハナはタロの目の前まで行き、タロのおでこをなめた。
「あのときのお礼も言っておくニャ」
「うぅ…?」
タロには、なんのことか分からなかったが、さっきも似た感覚があったことを思い出した。
「今日は、おでこがぽかぽかするのです」
タロは、丸いお手てでおでこをきゅっと押さえた。
キッチンではアサヒが本を見ながら何やら作業をしていた。
「アサヒ、さっきタロに会ったよ。ハナを探していたみたいだ」
リオがカウンターから話しかけた。
「え!タロのこと紹介するって言ったのにごめんね。さっき書斎で会ったときに連れてくればよかった」
「タロもそれどころじゃないみたいだったから、挨拶だけしといたよ」
「ハナとタロ、仲良くなれるといいんだけど…」
「僕は大丈夫だと思うな」
リオは確信に近いようだ。
「ところでアサヒは、何をしてるの?」
アサヒは咄嗟に両手をひろげ、リオの視界を遮った。
「見ちゃダメ!リオはあっちへ行ってて!」
「そんなこと言われたら気になるな。いい香りがするね」
リオはカウンターからキッチンを覗き込んだ。
「リオ!!!」
「…わかったよ」
リオはアサヒがほんとに嫌がっているのを察したようだ。
「仕方ないから、明日に向けて報告書でもまとめとくか」
リオが渋々部屋を出ていったのを確認すると、アサヒは作業を再開した。
実は、摘んできたミュゲをポプリにしようと、魔法で乾燥させているところであった。
ミュゲの横にはレモンの皮とロースマリーの葉。これらも乾燥させて、いっしょに布の小袋に入れて匂い袋の完成だ。
(これなら王都まで持ち運びできるよね。リオ、喜んでくれるといいな)
まだ日の出前の薄暗い早朝、リオとランディは出発前の最終確認をしていた。
王都までは、荷物もあるので馬車で行くのかと思っていたが、馬に乗っていくようだ。
リオの馬はふだん、ランディの馬と同じく隣街にある厩舎にいるので、アサヒは初めて会ったのだった。
アサヒはリオとランディの馬に回復魔法をかけた。
「長旅だけど、二人をよろしくね」
ヒヒンッ…ブルルル…
「アサヒ、それじゃあ行ってくるよ」
リオが馬に跨った。
「リオ、これ」
アサヒは昨日作ったサシェをリオに渡した。
「気をつけてね。行ってらっしゃい」
リオは、それがアサヒが内緒で作っていたものだと気づいたようだ。とても嬉しそうなリオの顔を見て、アサヒも照れてしまった。
「アサヒ、ありがとう。ハナ、タロ。アサヒのこと、頼むな」
「ハナがいるから大丈夫ニャ」
「ぼくたち、アサちゃんを守ります!」
「頼もしい護衛だ」
リオは最後にアサヒの頭に手を乗せ、優しくポンポンと撫でた。
「行ってくる」
リオはサシェを大事そうに上着の内ポケットに入れて、王都へ出発した。




