ハナとタロ③
「ハナさん、どこですか」
タロは慣れない屋敷で、ハナを探していた。
途中、小さな家蜘蛛に気を取られじゃれついたり、絨毯のループに爪が引っかかりつまづいたりしながら、やっぱりハナを探していた。
トテトテ…
「ハナさん、どこですか」
トテトテ…
「お、新入り、どうした?迷子か?」
朝食を終えたランディがタロに話しかけた。
「ぼくは、ハナさんを探してるんです。迷子ではありません」
「そうか、悪かったな。ハナなら、この時間は窓辺で昼寝でもしてるんじゃないか?」
「そうですか」
「見つかるといいな。じゃあ、また明日な!」
ランディは急いだ様子でその場を離れた。
「今の人はだれでしょうか。ハナさんのことを知っていました」
トテトテ…
「窓辺とは、なんでしょうか」
トテトテ…
タロはそこが階段だと気付く前に、足を踏み外した。
「わわわ…」
ゴロンゴロンゴロン…と勢いよく階段を転がり落ちる。
ドテッ……
「うぅ…びっくりしました」
よっこいしょ…と今度はうまく体を起こせた。
「どうしたタロ。大丈夫か?」
リオがタロを抱え上げる。
「うぅ…ぼくを知っていますか」
「タロだろ。僕はリオ。これからよろしくな」
「よろしくです」
「はは。ほんとにモコモコだな」
「リオさん、ぼくはハナさんを探してるんです。降ろしてください」
「そうなのか。ハナなら、ご飯でも食べてるんじゃないか」
「窓辺ではないですか」
「あぁ、窓辺かもしれないが」
リオはタロをそっと降ろした。
「キッチンにアサヒがいるから、聞いてみたらどうだ?」
「……ぼくが見つけます」
タロは転がらないように軽くお辞儀をして、リオと離れた。
廊下を進むと、書斎のドアが開いていた。
「ハナさん、ここですか」
中へ入ると、窓が少しだけ開いている。
窓の手前にはサイドテーブルがあり、そこへ乗れば窓から外が見れそうだ。
タロは、ドア付近から助走をつけてサイドテーブルへジャンプした。
ゴンッ…!!
ジャンプした高さでは届かず、サイドテーブルにおでこをぶつけた。
「うぅ…もう少しです」
タロはもう一度ドアまで下がり、走りだす。
ゴンッ…!!
「うぅ…もう少しです」
タロはもう一度ドアまで下がると、本を探しにアサヒがやってきた。
「タロ、どうしたの?おでこが赤くなってるよ」
アサヒはしゃがんでタロのおでこに触れた。
「大丈夫です。ぼくはつよ…」
「痛いの痛いの、飛んでけっ…」
おでこの痛みは、すうっとひいた。
(ぽかぽかします…)
「窓からお外が見たいの?抱っこしようか?」
「……ぼくは、今のぽかぽかを探します」
「ぽかぽか…?」
タロは走った。
探すのは、自分にもあるアサヒのぽかぽかの魔力。
「ここです!!」
辿り着いたそこは、元いたアサヒの寝室だった。
陽のあたる出窓に逆光となってハナの影が見えた。
「遅いニャ。待ちくたびれたニャ」
ハナは出窓からジャンプしてタロの前に降りた。




