ハナとタロ①
「ウニャーーーーーーー!!!!!」
ハナの叫び声で目が覚めた。
「アサちゃんに近付くニャーー!!」
「ハナ……、どうしたの?」
枕元でハナがものすごい逆毛を立てている。
起き上がると、タロが私の足元で毛づくろいをしていた。
「アサちゃん、あいつはなんだニャ!!」
そうだ。昨日は森へ行って、リオたちと話して、そのまま……
「…ハナ!大丈夫?痛いところはない!?」
「ニャ?どこも痛くないニャ。アサちゃんが治してくれたニャ」
「はぁ……よかったぁ〜。ハナ、よしよし。なでなでしよ」
私はハナの額をなぞるように撫でた。そのまま耳の裏から首周りを優しく撫でる。ハナは気持ちよさそうに目を閉じ、ゴロゴロと喉を鳴らした。
「ニャ〜」
「あのねハナ、この子はね…」
「ニャ!ヴゥゥゥ………」
ハナは耳をピンと立て、唸り声を上げ威嚇した。
「唸らないの。こわくないから」
私はタロの脇とお尻を持ち、抱き上げた。
タロはさした抵抗もなく、私に委ねるように体を預ける。
「この子はタロ。私たちの仲間だよ。仲良くしてあげてね」
ハナはタロをちらっと見た。
「…お兄ちゃんじゃないニャ」
ハナにも前世の記憶がある。
きっと、タロウお兄ちゃんのことも覚えているだろう。
「タロはまだ子どもだから、今度はハナがお姉ちゃんになって、色々教えてあげてね」
「ハナさん、よろしくです」
タロはお辞儀をすると、頭を下げた勢いでコロコロと転がり、ベッドからドテッと落ちた。
「ニャーーーーー!!?何やってるニャ!!!」
ハナは慌てて床でひっくり返っているタロの元に飛び降りた。
「大丈夫です。ぼくは強いです」
「関係ないニャ!!落ちたら痛いニャ!!」
手足が短いタロは、仰向けの状態からなかなか起き上がれない。
ハナはしばらく手足をバタつかせるタロの様子を見て、
「こんなどんくさい猫は、お兄ちゃんじゃないニャ!!!!!」
と部屋を出て行った。
(タロは猫ではなくて虎なんだけど…)
私はタロの背中をそっと押し、起こしてあげた。
「お兄ちゃんとは、だれでしょうか?」
タロが私に聞いた。
タロは決してタロウの生まれ変わりなどではない。
タロはタロだ。
ハナも、それは分かっているのだが、ハナにとって、タロウは特別な存在だっただけに、その名前を聞いて、どうしても思い出してしまうのだろう。
「ハナにはね、昔、お兄ちゃんがいたの。お別れしてからはずっとひとりで頑張ってきたから、急にタロが来て戸惑っているんだと思うんだ」
「ハナさんは悲しいですか」
「もう悲しいとは違う気持ちかな」
タロウを思う悲しい気持ちはとうに過ぎ、懐かしくて愛しい思い出にかわっている。
「ぼく、ハナさんを探してきます!」
「え!!?」
そういうと、タロはトテトテトテ…と駆け足で部屋から出て行った。
(外に出るわけじゃないし、大丈夫かな)
私はふたりをそっとしておくことにした。




