聖獣④
私は、ハナに寄り添い眠ってしまったタロの背中を撫でた。
(そういえば昔、タロウの背中もこうして撫でてあげたなぁ…)
タロウは初めて飼った猫で、里親募集のサイトから引き取ったアメリカンショートヘアの猫だ。
性格は控えめで、賢く、めったになき声もあげない子だった。
どこか遠慮がちで、甘え方を知らない、寂しがりなタロウだったが、うちへ来てから2年後、子猫のハナコを迎えると、状況は一変した。
タロウは、ハナコの手本となるよう、兄となり妹の世話に奮闘し、ハナコに常に寄り添った。
ごはんを食べるときは、なぜか、しっぽの向きまで揃えて並んで食べ、寝る時はアンモナイトのようにお互いの体を重ねて丸くなって寝ていた。
いたずらをしたハナコを怒るのもタロウで、怒られて拗ねたハナコをなだめるのもタロウだった。
甘えたがりのハナコにつられて、タロウも徐々に甘え方を覚えていったようで、タロウに初めてなでなでを要求されたときは、嬉しくて仕方がなかったことを覚えている。
まったく性格の違うタロウとハナコだったけど、お互いによい影響を与えているようだったし、そんな微笑ましい二人の姿をずっと見られるものと思っていた。
そうあってほしかった。
けれど、タロウはハナコを置いて、先に天国へと旅立っていった。
お兄ちゃんはどこ?
タロウの死を理解できず、ハナコは家中を探し回っていた。
もう、かくれんぼは終わりでいいよ。
お兄ちゃん、はやく出てきて、いっしょに遊ぼうよ。
何週間かして、タロウはもう帰ってこないと理解したのか、ハナコは私たち家族について歩くようになった。
ねえねえ、遊ぼうよ。
ひとりは嫌だよ。
寂しいよ。
ハナコがそう泣いているようで、見ていられなかった。
就職のタイミングで実家を出ることになった私は、ハナコを引き取り、目一杯可愛いがった。
それでも、仕事中はひとりにしてしまうし、寂しい思いもさせただろう。
タロウがハナコのそばにいてくれたらと思ったのは、一度や二度ではない。
「もしタロが、私についてきてくれるなら、こんなに嬉しいことはないです」
「そうか、タロか。私の愛しい子は、良い名をもらったな。まだ面倒もかけるであろうが、この子は強くたくましい。きっと、お主を立派に守り抜くであろう」
聖獣様にとっても、タロは大切な子だ。
「聖獣様。名乗ることをお許しくださいますか」
返事はないが、私は続けた。
「私はアサヒといいます。タロの名付け親として、私もこの子を守ると、聖獣様にお約束します」
聖獣様が頷いてくれたように見えた。
「さて、そやつらを抱えては帰れまい。屋敷まで送ろう」
確かに、すでに辺りは薄暗く、屋敷まで帰るには心もとない。それに、寝ているふたりを抱えては、数歩進むのがやっとだろう。
私は聖獣様の提案に乗ることにした。
「聖獣様。帰る前に、精霊に、ミュゲを摘んでもいいか聞いてもらえませんか?」
「かまわん。あとは、そうであるな………」
私は聖獣様に言われるがまませっせと動き、促されるままふたりを抱えて聖獣様の背中に乗った。




