聖獣③
ホワイトタイガーは魔物が倒れたのを確認すると、唸り声を止めた。
すると今度は、どこからともなく、聞き覚えのあるはしゃぎ声が聞こえてきた。
「きゃっ、きゃ」
「きゃきゃ」
精霊だ。
精霊がホワイトタイガーのまわりを飛び回っている。
白い毛がキラキラと輝き、一層神々しい。
(なんてきれいなんだろう…)
精霊とホワイトタイガーの様子を見て危険はないと判断し、私はハナに回復魔法をかけた。
口元に耳を近づけると、スー…スー…と呼吸も整っている。
まだ気を失っているが、もう大丈夫だ。
すぐにホワイトタイガーに視線を戻した。
(あれ…足元に何かいる…?)
目を凝らすと、ホワイトタイガーの足元から、同じく白い毛に黒の縞模様の仔トラがひょこっと顔を出し、トコトコと駆け寄ってきた。
私の目の前でお座りをして、抱きかかえているハナの眉間をペロリと舐めた。
(か…可愛い…!!!)
お手ても、お耳も、丸みがあって、もこもこしている。
全体的にコロコロしすぎじゃないか。
(3等身…転ばずに歩けるの…?
とにかく、すごく可愛い…!!!)
前世では、動物園でトラの赤ちゃんが生まれると、撮影会や触れ合いイベントが開催されていたが、その気持ちが今になって分かった。
あまりの可愛さに一瞬今の状況を忘れてしまったが、仔トラがハナを一生懸命舐め続ける姿を見て、冷静さを取り戻した。
「心配してくれてるの?ありがとう」
仔トラの縞模様が、どことなく実家で飼っていたアメリカンショートヘアに似ている。
「ふふ。タロウみたい」
私は仔トラの頭を撫でた。
すると、体中がぶわっと熱くなった。
私の魔力が仔トラに、仔トラの魔力が私に流れる。
そして気付いた。これは、従魔の契約だ。
私は仔トラに向かって「ステータス」と言った。
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名前 タロ
種族 ホワイトタイガー(聖獣の子)
年齢 1歳
属性 アサヒの従魔
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(や…やっぱり…!!)
「ぼくはタロ。よろしくです」
「な…なんで……」
ノスッ、ノスッと足音を立て、ホワイトタイガーが仔トラの元へやってきた。
「この子はまだ幼い。私から説明しよう」
私はその威厳に圧倒され、自然と頭を下げていた。
「せ…聖獣様…。た、助けていただいて、ありがとうございます」
そうなのだ。
仔トラが「聖獣の子」ということは、この方は聖獣様なのだ。
「よい。面を上げなさい」
「は、はい」
私はひと呼吸置き、顔をあげた。
「急な従魔の契約に驚いたであろう。お詫びする」
「そ、そんな…」
「お主はなぜ契約が結ばれたのか、不思議に思っておろうが、この子は一度、お主に命を救われておるのだ」
(私が仔トラを助けた…?)
記憶を辿るが、まったく思い当たる節がない。
「遊び盛りのこの子は、私の目を盗んでは森の中を駆け回っておった。その日も、森の魔物を相手に追いかけっこをしておってな。ホーンラビットに飛びついたところ、不運なことに角が腹に突き刺さってしまったのだ。私が見つけたときには、すでに瀕死の状態であった」
タロは自分の話と分かっているのかいないのか、ハナにぴったりついて離れない。
「諦めかけたその時、特大の魔力が地をつたい、回復魔法がかけられた。ミュゲの蕾は一斉に花開き、精霊は歓び歌を歌った。そして、この子も何事もなかったかのように、私に駆け寄ってきたのだ」
(ミュゲの開花…!そうか、あの時に感じた大きな気配は、聖獣様だったんだ)
「お主には、感謝してもしきれない。この子はお主と共にあることを望んでおる。どうか、連れていってやってはくれないか」




