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言語翻訳②

 昼食後、リオと私は応接室へ場所を移した。


「アサヒ、確認しておきたいんだけど…」

「うん」

「アサヒはもしかして、文字が書けないんじゃない?」


 その問いは正解のようで正解ではない。

 文字が書けないのではなく、『ウィンス語』が書けないのだ。


『言語翻訳』というスキルについて、今のところウィンス語でしか検証できていないが、おそらくどの言語においても「読める」し、「聞こえる」し、「話せる」だろう。

 リオやランディとの会話も違和感がないことから、唇の動きまで問題ないことが分かる。

 けれど、文字を「書く」ことについては、このスキルは、力を発揮しないようだ。


 そういうわけで、なぜ書けないのかと聞かれると、スキルの説明は避けられないのだが…


「うん…」


 どう答えるのが正解なんだろう。


(このスキルはふつうなのかな…

 リオに話して、変に思われない…?)


 おそらくこのスキルは特殊だろう。様々な言語を扱えるということは、近隣諸国との外交や国境をはさんだ販路の交渉などにも役立つし、国を代表する者であれば、誰もが喉から手が出るほどほしいスキルのはずだ。


 私は答えに詰まり、下を向き黙ってしまった。


 考え込む私を見てリオは、私が教養のないことに悩んでいると思ったのか、

「文字くらい今から覚えれば大丈夫、気にすることはないよ」

 と言い、この国の教育制度について話し出した。


 この国では、中流階級以上の子どもたちにはある程度の教育が施されるそうだ。

 6歳までは親元で教育を受け、7歳以降男の子は騎士学校に、女の子は医療学校に入り、12歳で一度卒業する。


「卒業後は、魔法の才能を開花させた学生の一部は魔法学校へ進学するんだけど、多くはそのまま進学して、男の子は騎士に、女の子は社交界デビューし結婚するんだ」


 リオとランディがいるので『騎士』は聞きなれていたが、『社交界』デビューして結婚…


(もしかしたら自由恋愛も少ないのかな?)


「アサヒだったら、今から勉強すればすぐに同じくらいの子どもたちを追い越してしまうよ。だから僕は、アサヒが知りたいことは何でも教えてあげたいんだ」


 私の悩みからは的外れな励ましに苦笑いしつつ、ありがたい気持ちになった。


 そういえば、リオは別に私のスキルについて聞いているわけではない。

 私が『何を知りたいか』を問いかけてくれている。


 リオはこういう気遣いができる人なのだ。


(リオならきっと大丈夫…)


 私は、正直な気持ちを話してみようと思った。


「もしかしたら、リオに変に思われるかもしれないんだけど…」

「思わないよ」


 私はスキル『言語翻訳』のことをリオに話した。

 リオは、

「初めて聞くスキルだ…」

 と驚き、

「しかも、便利すぎないか?他の者に知られたら危険だ…。いいかいアサヒ。このスキルのことは、誰にも話してはいけないよ」

 と、過保護に拍車がかかったようだ。


「それじゃあ、ウィンス語の文字と記号を覚えれば『書き』は問題ないんだね。案外簡単そうじゃないか。一覧表が載っている本もあるし」

 と言って用意してくれた本を開くと、そこには見知らぬ文字と記号が四角いマスの中に一文字ずつ書かれていた。おそらく『あいうえお表』のようなものだろう。


「そんな簡単じゃないんだよ。単語になると翻訳されちゃうし、音数だって同じじゃないから…」

「そうか。アサヒのそのスキルは、調整できないものなの?かぶさって聞こえたり、見えたりする母国語よりも、ウィンス語をメインにするとか。スキルだし、うまく使いこなせたらもっと便利だよね」


 そう言うと、リオは紙に文字を書きだした。


「『ぼ』、『く』、『は』、『れ』、『なー』、『ど』、『で』、『す』」

「あ…!」


 書かれた文字は、単語になって初めて翻訳されたことに気付かされた。


「どうかな?」

「途中までは聞きなれない音と文字だったけど、『ぼ』『く』が『ぼく』になってからはいつも通りだったよ」

「つまり、『ぼ』『く』といった感じで、一文字ずつ音と文字を覚えればいいのか。よし、アサヒ。まずはこの表を僕が読み上げるから、母国語でふり仮名を書き込んでいこう」


 一通りの単純作業を終え、なんとなくゴールが見えてきた。

 私が一覧表とにらめっこしていると、リオが隣で楽しそうに文字を書き出した。


「『ア』、『サ』、『ヒ』。『ハ』、『ナ』っと」


 ウィンス語で書かれた私とハナの名前。私は表をまじまじと見ながらリオに続いて文字を書いた。


「『ラ』、『ン』…」

「ちょっと待って!」

「え?」

「こっち、こっち書いて」


 リオは最初に書いた『ぼくはレナードです』の『レナード』に人差し指を置き、トントンと主張した。


「ね、こっち!」


 リオが体を寄せてくる。


「リオ、近い、近い…!わかったから!」


(リオってば、何に意地を張ってるんだか…)


 私は少し照れながら、『レナード』とリオの名前を書いた。

 一枚の紙に私とリオの文字が無造作に書かれているのを見て、少しこそばゆくなった。


 リンゴーーーン…

 玄関の鐘が鳴った。


「あれ?今日はランディの来る日だっけ」

「いや、物資もこないだ届けてもらったばかりだけど」


 リンゴーーーン…

 催促の鐘が鳴る。


 私とリオは玄関へ向かった。

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