訪問者②
リオはランディと話があるというので、私はさっそく菜園づくりを始めることにした。
まずは土を耕すところから。クワで耕す深さをイメージして、土の中に空気を含ませてみる。
ボコボコボコ…
土が盛り上がった。いい感じだ。
土の動きに合わせて、ハナが飛びついて遊んでいる。
ボコボコ……
「ニャニャ」
シュタッとジャンプし、伸ばした両手で土にタッチする。
ボコボコ……
「ニャ、ニャニャ」
シュタッとジャンプし、またタッチ。
このままではせっかく耕した土がハナの手形だらけになってしまうし、作業が一向に進まない。
(そうだ…!)
私は一度作業をやめて、土をこねて泥団子を作りはじめた。ギュッ、ギュッと固めてできた3つを地面に並べて置き、魔力を流す。
(お手伝いしてくれる小人さんになって…!)
すると、泥団子はボロボロッと形を崩し、全長30センチくらいの頭でっかちの人形になった。
泥人形は産まれたての子鹿のように、プルプルしながら動きだそうするが、とても思いどおりに動いてくれそうにない。
「ニャーー!!こいつらはなんだニャ!!」
「お手伝いしてくれないかと思って作ったんだけど、すごく動きがぎこちないね…そうだ、目とか付けてみる?確かこの中に…」
斜めがけのかばんの中をゴソゴソと探す。
「あった!この石ころなんて、どうかな?」
元々かばんに入っていた、直径1センチくらいの石を4個、3センチくらいある石を1個取り出した。ただの石ころだと思っていたが、日の光にかざすと透けて色付いている。
(瞳の色みたいでちょうどいいかも)
二体には小さい石を2個ずつ、残りの一体には大きい石を1個、顔に押し込んだ。
すると、石がピカッと光った。
(わぁ…!)
泥人形は、先程の動きが嘘のように、きびきびと動きだした。
「すごい!ちゃんと動いてる!」
「ニャーー!!こいつらは、ゴーレムだニャ!!」
「ゴーレム?」
「動く泥人形だニャ。アニメで見たニャ」
(ハナは前世でよくテレビをじっと見ていたけど、アニメが好きだったんだ…)
「石ころは、魔石だったんだニャ」
「魔石…?それもアニメで見たの?」
「魔石はハナにもあるニャ。魔物にとって、心臓と同じくらい大切な核だニャ」
もしかしたら、魔石を入れたことによって、ゴーレムに魔力が流れやすくなったのかもしれない。
「ゴーレム、これからこの種をまくんだけど、手伝ってくれる?」
三体のゴーレムに話しかけると、また魔石が光った。
(了解ってことかな…?)
一体が種の入った麻袋を抱え、一体が耕した土に少しの穴をあけ、一体が種をつまみまいていく。
「すごい!ありがとう」
「ゴーレムが種まきなんて、聞いたことないニャ…」
ハナは変なものでも見るように私とゴーレムを見た。
「ハナ、私たちはこっちの種を蒔いていこう」
「ニャ」
ハナはゴーレムに焚き付けられたのか、土で遊ぶのをやめて、やる気を出したようだ。
私は野菜や薬草を植える場所を決め、ハナに指示を出した。
トマトなどの高さのある野菜や、キャベツなどの背の低い野菜など、互いに陽を遮らないように配置を考えていく。
(ビーツ、じゃがいも、人参と他の野菜の間にはレンガを埋め込んで仕切りを作ろうかな。この一画は根菜コーナーにしよう)
ハナは種を咥え、器用に土に埋め込んでいくが、すでに鼻先は土まみれで真っ黒だ。
「ハナ、お口拭こうか?」
「自分でできるニャ」
ハナは自慢げに舐めた前足で顔をこすっているが、前足に土が付いているので余計に顔が黒くなっていた。
ひとまず、今日届いた種と苗は全て庭に植え終えた。
ゴーレムたちが、庭にあった使い古されたじょうろに水を汲み、水やりをしている。
(なんて優秀な子たちだろう…)
あんまり褒めるとハナがヤキモチをやきそうなので、ゴーレムたちが水やりを終えるのを黙って見守った。
ちょうどよく土が湿り気を帯びてきたので、私は両手をかざし、ミュゲの開花と同じように回復魔法をかけた。
(元気に美味しく育って……!!)
パパパパパパパパパッ
種からは双葉が次々に芽を出し、苗はグンと背を伸ばした。
「やった!芽を出した!」
「さすがアサちゃんだニャ」
とふたりで喜んだ矢先、野菜の成長が止まらないことに気付いた。
「ハ、ハナ、どうしよう、どんどん大きくなっていく…!」
「アサちゃん、魔力の注ぎ過ぎだニャ!」
私はハナを抱きかかえ、目の前で起こっている超現象にただただ驚き立ちつくした。
やっと成長が止まったときには、まさに収穫時の野菜がごろごろと実を結び、花々は咲き乱れていた。
私とハナは顔を見合わせ、ふふっと笑った。
「びっくりしたーーー!!!」
「ニャ」
リオにも早く見せたくて、私は熟した野菜をいくつかもぎ取った。
屋敷へ戻る途中、木陰で休むランディの馬の元へ立ち寄った。
今まで飾りだと思っていた屋敷の壁に取り付けられているリングは、馬を繋いでおくものだったようだ。
何かあって興奮しても駆け出さないように、ランディの馬も革紐でしっかりと繋がれていた。
馬は、よほどリラックスしているのか立ったまま寝ているようにも見えた。
「今日は重い荷物を運んできてくれて、ありがとう」
声をかけると馬は振り返り、ヒヒン…!ブルルルル…と鼻を鳴らして目を細めた。
「触っても大丈夫?」
私は馬の首の付け根あたりにそっと触れ、疲れが癒えるよう回復魔法をかけた。
馬は甘えるように鼻を擦り寄せてきた。
「ブルルル…」
「ありがとうって言ってるニャ」
「どういたしまして」
「アサちゃん、ハナも疲れたニャ〜」
「ハナもたくさん手伝ってくれたもんね」
慣れない姿勢で作業していたので、体のあちこちが限界だ。
「お馬さん、ゆっくり休んでね」
私はハナを抱っこし、屋敷に入った。