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小さな失恋

作者: まる

 私は今日小さな失恋をした。恋を失う。恋が互いを求めあうことだとするなら、瞬間我々は確実に恋に落ちた。そしてそれとともに小さいながらも決定的な喪失を体験したのだ。

 2人の人間が互いを求めあう。なんて確率なんだろう。それは、ニュートンという人間が偶然寝そべった傍らに、リンゴの木が偶然生えていて、リンゴの果実が偶然彼のほほをかすめたことが容易さのあまりかすむほどの出来事だ。輝かしいこの奇跡が、目がくらむような光と鼻をくすぐる香水の香りで満ちた舞踏会の場で起ころうとも、とても好んで嗅ぎたいとは思えない香りで満ちた薄暗い公衆便所で起ころうともそこに、だれがどのようにして順位をつけられようか。重要なことは1つの星がちりに思える宇宙の中で求めあう二人が出会ったことがどれほど美しいものかということだ。

 私は慰めを欲していた。無限に思える与えられた時間の中で、身に降りかかる圧力の数々におびえ傷ついてゆく。つまり19歳の青年は突然ストレスだらけの世界に放り込まれ、戸惑い苦しんでいた。しかし慰めを与える者はいない。青年は自らを地球上で最も暗い場所の一つであろう、公衆便所に自らを追いやり、自らを慰めようとしたのだ。なんと孤独で哀れな行為。

 しかし、奇跡。壁を隔てたそこで彼女もまた自らを慰めていたのだ。流れてくる彼女の甘美で悲しみに満ちた彼女の息吹が耳から私の体中を流れてゆく。彼女もまた青年の悲痛に満ちた滑稽なよがり声に共鳴したことであろう。つまり我々は世界一の陰鬱で満ちた現実の場所を離れ、素晴らしき想像の世界でまじりあったのだ。2人だけの世界は確実に存在したのだ。顔も年齢も知らずの二人だけで作り出された世界。

 だが、現実で2人が出会った場、そこは置き去りにされた醜き場所であった。私は恋という圧倒的な奇跡がどこで起ころうと等しく美しいと前述した。しかしそれは現実の世界での比較が不可能であるということなのだ。我々は2人だけが作り出すことのでき、2人だけしか存在しえない世界で交わってしまった。現実の中でこれほどまでに美しい場所をどうして見つけられよう。私はほどなく陰鬱な世界から家路についた。つまり私は今日小さな、しかし確実な失恋をしたのだ。

 


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