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ロンドンへの途上
駅を離れ、速度を緩やかに増す蒸気機関車。窓打つ風は強く、野外を吹き抜ける。ふと顔を上げると、通路を、途中の駅から乗り込んできた少女が歩いていた。
ボンネットで金色の髪を束ねた簡素な黒いドレスの姿は、二等席の乗客にしては地味すぎる。小さなトランクを重そうに両手で運び、彼女は揺れる車内、よたよたと歩きながら、空いた席を探していて、僕の前にそのスペースを見つけると、僕へ頭を下げてから、腰掛けた。
足元にトランクを押し込み、彼女は僕を一瞥してから、静かに目を逸らす。供もいないその旅は、ロンドンへ働きに出る途上なのかもしれない。手袋をしないその手は、少し荒れている。
うとうととしながらも、眠らないように、彼女は必死に眠気と、戦っていた。繰り返して何度も眠りから覚める彼女を、ぼんやりと眺めていた。
ようやく眠りに負けて、彼女の動きが止まったと思ったら、その唇が、かすかに動き、それは音になった。
「セプティマス様……」
呟いた彼女の目の端からは、静かに涙が零れ落ちていた。