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階を隔てた世界~1 大家の娘
細い身体は日々の重労働に削られ、炎に照らされる顔は痩せていたが、青年の青い瞳はその優しさを失わず、ただじっと、見つめていた。
弱々しい暖炉の炎が絶えないように、暖炉に石炭を足す少女の指先を。暖炉に置かれた鉄の台、その上の小さな鍋を、ひしゃくでかき混ぜる、その指先を。
暖炉を見つめながらも、交わらない視線。
「……僕は物乞いではないんだよ。頼んでいないのに」
「私がしたいから、しているのです」
かき回すその手を休め、皿に薄いスープを盛り付け、青年に渡すその時さえも、少女はうつむいたまま、不器用に。
「家賃を払ってくれる人がいないと、困りますから」
「……時々、遅れるけどね」
「払ってくれるだけ、ましです」
部屋の一角には、描きかけの絵画がある。そこには、暖炉の前の少女の姿が、粗い鉛筆で書き記されていた。
倫敦の、ありふれたタウンハウスの一画、けれど、ありふれてはいない光景、ひとりの少女と、借家人の青年の、小さな恋の物語。