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消えていった未来
「ねぇ、きれいな雪だよ。アリサ。見てごらん」
少年は微笑み、同い年の少女に、手のひらを差し出す。
雪は融けて、ただの水になっていた。
「すぐに消えてしまうのですね」
「もっと、きれいな雪を見せてあげるよ」
「危ないです、伯爵様」
「大丈夫だって」
テラスに腰掛けて、身を乗り出す少年は、空から舞い降りるひときわ大きな雪の塊を見つけると、待ちかねるようにじっと見つめ、それから一気に、手を伸ばした。
その刹那に。
平衡を欠いた少年は、落ちていった。
三階、二階、一階の窓の外を緩やかに、大地へと。
声にならぬ叫びをあげ、テラスに駆け寄った少女が見たのは、薄く積もり始めた雪に彩られた地上に落ちた、幼い主人の無残な姿だった。
上に差し出したままの手のひら、強く降り始めた雪が、重なっては消えていた……