屋根裏部屋の少女
青白い月の光が降り注ぐ、ガラス越しに。冷たい世界を凍らせるように、観客のいない舞台で彼女は横たわっていた。ようやく辿り着いた最上階、静けさが支配する屋根裏部屋で。
流し場で皿を洗っていた少女の手のひらはあかぎれて、白いシーツの上に投げ出される。弱々しい小さなその手のひらは、かすかにシーツを掴んでいた。
白いエプロンと、黒の簡素なドレス。
制服を脱ぐ余裕も無く、ベッドに倒れこんだ彼女は、夢さえも見ないほどに、深い眠りに落ちていた。
何度も何度も階段の上り下りを繰り返したその足と、共にあった革のブーツは磨り減って、脱ぎ捨ててある。
着替えるまもなく、制服姿のまま眠って、あとほんの数時間で日が昇れば、彼女はまた起きて、仕事を始める。毎日毎日、いつまで続くか分からないまま、ただ朝が待ち構えている。
疲れている彼女、それが現実になのか、心身なのか、わからないままに。
倫敦に数千数万とある、誰一人見ることの無い、夜の屋根裏部屋のひとつ、使用人たちは訪れる朝を待ち望みながら、怯えながら、眠っている。
青白い月は雲間に隠れる。少女が心地よく眠れるようにと。