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死ぬほど情熱を込めた画家

作者: 川里隼生

 二〇一七年に日本の科学者が発明したタイムマシンを使い、男は五年後の世界へ飛んだ。男は画家である。タイムマシンを使った目的は、絵を描くための資料を手に入れることだ。西暦二〇二二年のバルセロナ。そこには五年後の画家がいた。


「……やあ。君が来るのはわかっていたよ」

 五年後の画家が、一枚の絵を前に言う。画家の自画像だ。非常に写実的に描かれている。

「ということは、あなたも?」

「そう。私にとっては五年前になるが、私はタイムマシンで未来に行き、資料を手に入れた」


 未来の画家は絵を離れ、クローゼットの扉を開けた。そこには、死体となった画家が首を吊られて保存されていた。

「生物を描くためには、三つ重要なことがある。その生物の外見の特徴を把握すること。骨格など、内部の構造を理解すること。そして、描く個体の性格を知ること。……以上三点を使う習作に最も適しているのは、自分の死体を使った自画像を描くことだ」


 未来の画家の講釈に、過去の画家が拍手を送る。

「素晴らしい。まさにその通りです。それでは先生、どうかこの私にも、習作のための資料を頂けませんでしょうか」

 未来の画家は震えた声で言う。

「この死体で良ければ、若い君に譲ろう」


「いえ、それはいりません」

 若い画家は、ロープを取り出した。

「私はあなたの体が欲しい」

「待ってくれ! 何も私を殺す必要は無いじゃないか! この死体と私の体には何も違いは無い。私はまだ生きたいんだ!」


 若い画家は、狂気の眼差しで未来の自分にロープをかける。

「私なら喜んでその身を差し出すと思ったんですが、意外ですね。五年も使い古されたお下がりなんていりませんよ」

 首を括られた画家は、ある女性の名前を自画像に書いて事切れた。恋人か妻か、或いは娘だったのか。五年前の画家は知らない名前だった。


 画家が未来の自分を絞め殺すと、もう一度、五年後の自分が描いた自画像を眺めた。左頬の辺りに女性の名前の一文字目が重なっている。

「少し汚れてしまったが、やはり素晴らしい。五年後、私は彼を超える画家になってみせるぞ。そしてその体を、過去の私に潔く捧げるんだ」

 五年後、本当に画家が潔く死を選ぶかどうかは、今の彼が知る所では無い。

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