第九話 相談
本日二話目の投稿です
「というわけで決闘することになりました」
「何やってるんですか」
アミルカレもニコロも呆れた声を出した。
あの後シルビアは自分の実力によほど自信があったのだろう。餌を投げられた犬のような目をして、やれ礼儀を教えてやるだの、負けたら自分のことを好きにしていいだの、さんざん勝手なことを言って3階から降りて行った。
砦に新たにできた二の丸に設置されたテントの中で僕はアミルカレとニコロの二人と駄弁っていた。テントの外では兵士達がテントを張って寝泊りの準備をしている。
「もー少し穏便に済ませられなかったの?」
「そんなこと言っても仕方ないでありますよ、ニコロ。婚約者を三年間ほったらかしにした挙句、婚約破棄された男であります。」
「そのことは…反省している。」
アミルカレもニコロも幼少期から一緒につるんでいたためこういう場合には全く遠慮がない。また僕もこのような気のおけない関係性がとても好きだった。
「よく非番の日に娼館に行ったよな。」
「そのあとでタンクレディの婚約者から詰問する手紙が届いたこともあったであります。」
「確か聖女様にもお叱りを受けてたよな。」
ヤバイ矛先がこっちに向いてきた。ただ先の婚約者との事情に関しては完全に僕が悪いのでなんとも言えない。何やってたんだよ、記憶を取り戻す前の僕は…
「過ぎたことは仕方ないとして、問題はシルビアに勝てるかどうかだ。」
「勝てるんじゃないか?お前は仮にも勇者候補だろう?」
「いや〜油断はしたくなくてな。」
僕は首をふった。脳裏にはマルグレーテに敗北したいまいましい記憶が蘇る。
ニコロはうーんと腕を伸ばした。
「タンクレディは剣技だけみれば世界トップクラスだが、魔法は使えないからな…」
「まあ勇者一族は多かれ少なかれ魔法を苦手とする人が多いでありますよ。ニコロも自分もあまりうまくはないでありますから」
「待て。俺は使えるぞ」
「ニコロのは生産スキルでありますよ。正直魔法と認められるかは学者によるであります。」
アミルカレは茶化すように言った。見れば目が笑っている。
「なんだと?」
ニコロは笑いながらアミルカレのことを指で突き始めた。
「そこでだ、次からいうことは秘密にしておいて欲しいんだが、二人にはシルビアに関する情報を集めて欲しい。アマゾネス達にそれとなく聞き出せるか?」
「問題ないであります。」
「アマゾネスの中には城壁を作る手伝いをしてくれる者もいるからな。そいつらに『いつもご苦労さん』とか言って酒でも奢って聞き出せばいい。」
「アマゾネスも手伝ってくれているのか」
「ああ、アマゾネスには木魔法や土魔法もちの奴らが多くてな。生産スキル持ちもユニークな奴らが揃っている。そいつらが中心になって手伝ってくれてるよ。正直とても助かる。」
「シルビアも魔法持ちかな?本人はミリィ殿の剣の師匠とか言ってたけど」
「それに関しては明言できないであります。そのことに関してはミリィ様にお聞きになるのが一番でありますよ。」
「うん。そうしてみる。悪いな」
「へへっ。らしくねえぜ」
「あとはミリィ様に逃げられないように気を付けるでありますよ。」
「同じ失敗はしないさ」
そう。ミリィとの関係がアマゾネスとの、そして部下達の将来をも左右するからね。
■
二人と別れると、僕は新設中の城壁へと向かった。工兵連隊の連中は暑いのか上着とマントを脱いで半袖になっている。第一連隊に至っては面よろいだけでなくコテも上下の鎖帷子、そのしたのシャツも脱いで半裸でスコップを奮っている。だがその中には胸布と腰布の外側からマントを羽織り、編み笠を被ったアマゾネス達が混じって一緒に作業を行っていた。
砦に入るにあたって。将来は君たちの奥さんになるかもしれないから紳士的に扱うようにという命令が効いたのかもしれない。普段ガサツな冒険者達も、いいところを見せようと黙々と作業をしたり、狩の獲物をプレゼントしたりしている。
「つかみは悪くないな…」
新設中の土塁に上がってみると、まだ土がためは終わっていないらしく、木槌の振動が足を伝わってきた。ここにさらに木でできた柵と新設するのだ。周りの木々も一斉に伐採する。
土塁を一周しているとシルビアにあった。シルビアは相変わらず美しい顔を険しく歪めて僕の方を見てきたが、気にせず笑いかけて手をふった。
「タンクレディ様よ」
「お強いのかしら」
「もし貸したら逆玉を狙えるかも」(これに関して、アマゾネスの性別に関する考え方は、タンクレディたちとは真逆にあるらしい)
「ダメよ。タンクレディ様はミリィ様のものでしょう?」
「年上に興味はないかしら」
女三人集まれば姦しいということわざはどうやら種族を問わないらしい。ただ気の合う男が集まってもうるさくなる場合もあるから、もしかしたら噂話とは人類共通のものなのかもしれないが。
「うるさいぞお前達。ミリィ様があれに興味を示されたのは一時の気の迷いだ。すぐに目が覚めるだろう。」
シルビアはフンと鼻を鳴らすのだった。
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