第六話 ミリィの独白 【ミリィ視点】
私は混乱しました。もともとアマゾネスという種族に結婚という概念はありません。初めて聞いた言葉なのです。
「結婚とは契りを結ぶことという理解で正しいのでしょうか?」
「ただ契りを結ぶだけではない、生涯添い遂げることをお互いに誓う」
私の顔がはっきりと青ざめたのが自分でもわかります。結婚とはアマゾネスという種族の生き方の根幹を揺るがしてしまうでしょう。そもそもアマゾネスがちぎる相手は一人とは限りません。お母様だって何十人もの屈強な男たちと交わってきましたし、後学のためとして部屋の隙間からこっそりと妹と一緒に見させられました。
結婚して生涯添い遂げることを誓ってしまうとそれができなくなってしまうどころか、部族ごと目の前の男の配下に組み込まれてしまうでしょう。
しかし私たちには選択の余地はありません。こうしている間にも、お母様や妹たちが奴隷商人に売られて行ってしまうかもしれないのです。目の前の男達となんとしてでもてを組まないと、農奴も農地もあらかた奪われた今の私達は飢えて死んでいってしまうでしょう
それにしても❗️まるで私の色仕掛けが通用しないとは❗️。男性経験こそありませんが、王族としての交渉術やハニートラップのやり方などは一通り納めているはずです。最初に声をかけたときはいい反応でしたのに途中からまるで別人のようになりましたね。
「私ではご不満ですか?」
私は再度上目遣いをして、目の前の、確かタンクレディ様でございましたね、を見つめてみる。今度は庇護欲をそそるような不安げな目付きで…
タンクレディ様の目に少し血が走りましたが、すぐに醒めた目付きに戻ってしまいました。どうやら今までの男どもとは毛並みが違うようです。
きっと色仕掛けではタンクレディ様を落とすことは難しいでしょう…
今までの男は猫を可愛がるかのように私を扱いましたが、タンクレディ様は…とてもそのようなそぶりは見せません。
しかしそれでは私のプライドが許しません。目の奥には時折血が走りますから、劣情を必死に押さえ込んでいるのかもしれません。ならばそこにつけ込んで少しづつタンクレディ様を虜にして見せてあげましょう。
■
ミリィは小さい頃から母親に似て美しいと言われてきたのだ。王宮に出入りする奴隷商人や、男の農奴たちから劣情のこもった目線を投げられたのも一度や二度ではない。しかも成長していく中でその目線は増えて行った。ミリィは自分に投げられる劣情を最大限に活用する方法をとる。しきたりのため男と交わることは許されなかったが、それでも商人との交渉を有利に進めるために女という最大の武器を幾度となく使い、そして磨いてきた。
だからこそ目の前の男を諦めたくはなくなったのだ。
自分が恋をしているという自覚はまだなかった
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