第五話 王女
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「私はマリィ・クロード。クロード族の第一王女でございます。この度はお願いがあってやってまいりました。」
マリィという少女は服の上から着込んでいるらしいギリースーツを脱ぎながら流暢なヴォラリア語で挨拶してきた。ヴォラリア語はヴォラリア半島とシテ島で話されている言語だ。
ギリースーツを脱いで見れば、目の前の少女、おそらく15歳ぐらいであろうか、は控えめにいってかなりの美少女だった。ため息の出るほど見事な金の髪、透き通るような白い肌、バランスの取れた肢体、目は低緯度地帯の日光が強い地帯に多い黒。
少女の格好は胸と腰に緑色に染色された布が巻かれていて、足首まで隠すような靴を履いている。だがそれ以外は何もつけてはおらず、胸に巻いた布も谷間を見せつけるかのような巻かれ方をしていてとても扇情的だ。
僕の心臓はドクドクと鼓動を打ったが、簡単に絆されてはいけない。物語の中の王女が飛び出てきたような容姿をしてはいるが、おそらくは過去、刃を交えたマルグレーテと同じく女戦士なのだ。
右腰には無骨なナイフが差されていて、メルハリの取れた体躯には性差による皮下脂肪の関係性か、筋肉こそ目立たないものの相当に鍛え上げられた様子を見て取れる。どんなに可憐な容姿をしていようとも、目の前の少女は優秀な軍人の一人であるのだ。不意を突かれたら勇者候補としての剣技を持つ僕でさえ苦戦するだろう。
「本当に王女様でありますか。どうやら護衛がいないようでありますが。」
アミルカレが近くの草むらを見つめながらマリィに言った。ジュリオはジュリオで別な方向、僕の背後だ、を見つめていた。するとアミルカレの見ていた草むらとその隣の草むらから、むくむくと人影が立ち上がった。目の前の少女は部下を隠していたのだ。
現れた女性二人はマリィを疑うような発言をしたアミルカレに対し、喰い殺さんばかりの視線を投げている。
どちらも20代半ばの女性のようだ。ただやはりギリースーツを纏い、片方は右手に剣を、もう片方は口元に吹き矢を構えている。マリィと違って二人とも顔にまでペイントを仕込んでいた。アミルカレはどうやら二人の護衛には気付いていたらしい。
「100メートル先、2時方向、木の上に一人クロスボウを構えた奴がいる。とんでもない精度の気配隠しのスキルもちだ。盗賊ならあっという間にAランクになれるぜ」
ジュリオは目を細め、右手に抜身の剣を持ちながら答えた。周囲にいた冒険者や兵士たちが何事かと集まってきたが僕は右手を上げて、配置に戻るように指示した。
「丁寧な挨拶恐れ入ります。私の名はタンクレディ・デ・フォーア・インペラトール、フォーア伯を名乗っております」
僕は王女になるべく丁寧に挨拶を返した。
「王女様におかれましてはご機嫌麗しく。ヴォラリア語が非常に上手ですね。」
「ありごとうございます。シテ島の商人は時折わが王国に訪れますので、その商人と交渉する過程で覚えました。簡単な読み書きもすることができます。」
マリィは笑顔を浮かべて返事を返した。花が咲くような笑顔だ。今の世に生を受けてから、戦争と訓練ばかりで女性にはあまり縁がなかった僕には眩しいばかりだ。
「それでお願い事とはなんでしょうか」
ミリィは上目遣いに僕を見つめ、少しだけ胸の谷間や尻を強調するような仕草をしてきた。少しあからさますぎる。色仕掛けでも仕掛けているつもりなのだろうか?前世含めいくら女性に縁がなかったとは言え僕のことを舐めているのだろうか?僕は自分が色仕掛けに引っかかるような人間に思われたような気がして、少し不愉快な気分になった。
「我が王国は現在、非常に恐ろしい敵、テスラ族に攻撃を受けております。フォーア伯爵様には我が王国の窮地を救っていただきたいのです。テスラ族とは我々と同じくアマゾネスの一族。この大陸のアマゾネス勢力を我々と二分する部族でございます。」
「アマゾネスか…」
アマゾネスという言葉は前世でよく読んでいたラノベによく登場する単語だ。ラノベ界隈では大抵女性優位の種族として描かれ、男を外の世界から拉致し、子供も女性しか生まれない。この世界での記憶と照らし合わせてみたが、シテ島やヴォラリア半島で見かけたことはほとんどなく、そういう部族が存在するという噂を耳にする程度の認識でしかなかった。
それを裏付けるかのように、アミルカレが顔を寄せて耳元でささやいた。
「果たしてこの少女は本当に王女なのでしょうか、格好も仕草も娼婦そのものです。」
僕はアミルカレの頬に口を近づけてささやき返した。
「いや王女かどうかはともかく、高位な身分であることは確かだろう。もし低い身分であればわざわざ護衛を3人もつける必要性はない。護衛もAランク冒険者のジュリオやお前に気づかれないように気配を隠すことができることを考えても相当の猛者だ。」
「さようでありますか…」
どうやら僕らの会話はミリィに聞こえていたらしい。熱帯雨林で暮らしているために聴覚が発達しているようだ。
「王族の紋章は私の太腿の付け根にございます。お見せいたしましょうか?」
そう言ってミリィは男の嗜虐心を煽るような挑発的な目付きをした。
(大抵の男はこれで落ちるな…見せろと言うと完全に相手の術中にハマる。見せるなと言ってもミリィのことを意識せざるを得ないうまい手だ…)
僕は相手の術中にハマらないようにあえて王家の紋章のことは無視、さらに相手の策略に乗ったようなそぶりを見せることにした。
「我が軍が貴王国に助力することに対して、貴女は何をしてくれるのだろうか?」
「もちろん私自身をあなた様に捧げます。」
「っつ、姫様?」
ミリィは自分の容姿に相当な自身を持っているのだろう。僕の質問に即答した。あまりの即答ぶりに護衛に来ていたアマゾネスの戦士が焦った声を出した。どうやらこの女戦士の反応は演技ではないようだ。
(するとミリィが王女であることも確定か?)
だが僕の心はミリィの思惑を見透かした時から幾分か醒め始めていた。もともとこういう性分だから仕方ない。だから恋人ができないのですよとよくアミルカレやマウロに言われたものだ
もしかするとミリィは自分を対価に交渉することに慣れている。少なくとも自分の魅力については十二分に知っているようだ、が今ミリィの提案に乗ることはできない。仮に乗ったとしても、部下たちからの信頼は低下する可能性がある。僕についてきた一万の人間の大半は男性なのだ。軍団兵はほぼ全てが男、冒険者たちも八割が男で女は二割ほどしかいない。特に己の欲望に忠実な冒険者の男たちからは不満が噴出するだろう。
「返事をする前に三つほど聞きたいことがある。一つ、クロード族とテスラ族のだいたいの人口、二つ、生活様式や食を獲得する方法について、三つ、現在のクロード族とテスラ族の関係性や勢力についてだ。
それらを聞いてから答えをだそうと思う。」
「慎重でございますね…
一つ、クロード族、テスラ族共に総数は8000程度でございます。そこにお互いの傘下部族3000づつ、農奴がお互いに12000ずつでございます。
二つ、我々アマゾネスは主に略奪、貿易と農業に従事いたします。略奪とは他部族に攻め入って財産や捕虜を獲得することです。基本的にアマゾネスの捕虜は奴隷商に売り払い、残りは農奴にいたします。財産も農奴が基本単位です。
貿易ではこの地で取れる魔石や魔獣の素材などを売買、また農業に従事するアマゾネスも多数ございます。アマゾネスは18で成人をして男奴隷があてがわれます。人口の半分は18歳以下の未成年です。
三つ、クロード族は現在、テスラ族の奇襲によって散り散りになっております。しかし貴方様と手を組めば十分に挽回することができるかと思われます」
話を聞いてみるとそこまで危機的状況ではないらしい。だがミリィの話は本当のことだろうか?客観的に考えて、もしクロード族が壊滅しているのであれば、我々がクロード族に手を貸すとは思えないだろう。あえて自分の勢力を誇張している可能性もある。
そもそも助けてほしいと言ったのは本当だろうか。味方の援軍が到着するまでの時間稼ぎの可能性もある。
黙り込んでしまった僕をみて、ミリィは少し焦ったような声を出した。
「お願いです…」
ミリィが焦る理由は十分にあったのだ。のちにわかったことだが僕の考えは半分当たっていた。
クロード族には現在傘下部族はなく、農奴は2000人ほどしかいない。先程の戦争で負けるまではテスラ族と農奴や傘下部族の数はほぼ同じだったが、多くの農奴が奪われ、傘下部族はこぞって敵方に走る。また敗戦に伴い、女王陛下含めおよそ5000ほどのクロード族の戦士たちが捕虜となっている。
ミリィは援軍を呼びたくても呼べない状況にあったのだ。
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「ふむ、ではこちらの条件を伝えよう」
僕は相手が本当に我々との同盟を望んでいるかどうかを調べるために、相当厳しい条件を突きつける。
「一つ、テスラ族との戦争中の食糧の確保だ、一万人分の食糧を一年分。ただしこれは急がない、毎月決まった日に決まった分だけ提供していただければ良い
二つ、周辺の詳細な地図、あるいは信頼できる道案内人の提供」
「それだけでございますか?」
「いやまだある。これが最重要だ。戦役終了後、我が軍の兵士とクロード族の全てのアマゾネス成人女性との集団結婚だ。部下の要求によっては18歳以下のアマゾネスたちも結婚をしてもらう。」
ミリィは少し不思議なものを見るような目で答えた
「結婚とは…一体なんのことでございましょうか…」
「面白い」「続き気になる」「ミリィはどうなっちゃうの」
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