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第三話 思索

会議と言うより説明会で終始したミーティングの結果、それぞれの行うべきことが決定した。


まず3000人ほどいる冒険者たちのうち生産スキルを持っていないものは大陸の奥地へと探検に出発する。現地に人間がいないか、危険な魔獣がいるかどうか、使用可能な鉱物資源や川があるかどうかなどを調査することになっている。地図作りのプロである盗賊職もいることから、周辺の詳細な地図も作ってくれるだろう。


続いて軍団兵が五キロ四方を焼き払うために酒と斧を持って森の中へ。下手を打つと自分達まで焼き殺しかねないためにまずは焼き払おうとする土地の周囲20メートルほどをおので切り倒す必要がある。


生産スキル持ちの冒険者と兵、土魔法、木魔法もちの軍団兵たちは集められて新しく編成された工兵連隊に編入される。彼らにはこれから建設する都市の城壁と土地を耕すための農具の生産が任される。


貴族や騎士たちにも手持ち無沙汰にならないよう海岸線沿いの探検に送り出した。



「「「「「「「「「「炎よ敵を焼き尽くせ、ファイアボール」」」」」」」」」」


第一師団所属の第一魔法連隊(火魔法連隊)が声を揃えて詠唱を開始する。木々が炎によってなぎ倒されていく様は壮観の一言に尽きた


『ファイアボール』とは初級火魔法の基礎中の基礎とも呼ばれるもので、直径30センチメートルほどの火の玉を50メートルほど飛ばすと言う魔法だ。


詠唱が短い代わりにあまり威力がなく、中級の支援魔法を使えば火魔法に対して相性の悪い木魔法でも十分防ぐことができる


魔法を使うには属性魔法の才能が必要なため、魔法の才能なしと言われた僕はこの魔法すら操ることができなかったが…


第二波の詠唱を開始する魔法連隊を横目に見ながら、思索を開始する。この精鋭たちを率いていながら自分は敗れたのだ。その原因ははっきりしていた。根本的な兵力差と、自分以外の優秀な指揮官がいないことにある。




タンクレディ直属の軍団兵たち、通称タンクレディの精鋭は実際に負け知らずではあったのだ。だがそれはタンクレディの率いていた本隊に限られる。敵指揮官もむざむざとやられてはいなかった。タンクレディに勝てないのであれば、戦わなければ良いのだと考えて、決して決戦に打って出ようとはしなかった。その代わりタンクレディがいない部隊には襲いかかり、その度に敗北を重ねるのはタンクレディ側であった。


まず数度の戦闘で軍団兵本隊には勝てないと悟ったミリア一門がゲリラ戦を開始する。本隊が攻め落とした後の街や砦の防衛に残された軍団兵たちを総力上げて攻撃することで、タンクレディたちを苦しめる。軍団には中隊長クラスの欠員が多いが、これは中隊規模での全滅が多いことを表している。


魔王軍、魔法第一主義の国というわけで別段魔族の国というわけではないが、は大量の光属性の回復魔法使いを送り込んで、怪我人を即前線に送り返した。野戦では弓兵と騎兵のコンボに敗退を続けてはいたが、拠点防衛ともなるとしぶとく、魔王軍の援軍がこもったマルグレーテの本拠セコイア市は海陸からの2年半にも及ぶ攻防戦を勝ち抜いた。


世界最大の人口を誇る王国は次々と新兵を徴集しては半島に送り込む。タンクレディがセコイア市攻略のため放った別働隊を待ち伏せで粉砕したの王国軍だ


これまた世界最大の鉱山を抱える帝国は金を使って冒険者や傭兵をかき集める。タンクレディが新しく徴募した軍を信じられない嗅覚で嗅ぎつけては追跡、攻撃を繰り返した。


といった具合に次々と新手を繰り出してくる敵に対して、軍団は新規の補充すらする暇もないほどに各戦線を駆け回り、戦力をすり減らして行った。敵が別働隊に襲い掛かれば、敗退を繰り返すのはタンクレディ軍の方であった


早急に一つの戦線を任せることのできる指揮官たちを育成しないことには何も始まらないし、新たな兵力を集める手立ても講じねばならない。


だが指揮官のアテはなかった、師団長たちはタンクレディの指揮のもとで戦うのに慣れてしまい、戦線を任せるのには不安があった。連隊長クラスで一番目をかけているのはアミルカレだが、戦場の経験も不足しており、やはり戦線を任せるには至らない。


兵力も募集する手立てもなかった、シテ島に戻って集めようにも、マルグレーテ一派が見張っているだろう。フォーア家シンパをうまく動員できても、マルグレーテ陣営に表面的な対立がまだ起こっているわけではないので、先ほどの内乱の二の舞になってしまう


「現地人を味方につけられれば良かったのになあ」


肝心の現地人が見当たらないのでこれも保留である


うーんと頭を悩ませながらも、大テントに向かった



「よし、みんな注目してくれ。」


例の大テントには生産スキル持ちの冒険者パーティーと工兵連隊の面々が集められていた。工兵連隊とは記憶を取り戻してから新しく新設された部隊で土魔法持ちの魔法使いや魔法剣士を中心に手先の器用な軍団兵を集めた部隊である。


「知っての通り、我々はしばらくはこの地で暮らす。そのためにこの地に拠点を確保したい。とりあえず必要なのは安全を確保するための城壁、そして当面の食料生産の方法だ。


城壁はとりあえず正方形の形に整えてくれば良い。問題は食糧生産だ。この図面をみてくれ。」


運び込まれたテーブルの上に白い紙が広げられる。一つは車輪付きの大きな鋤、もう一つは車輪に穴が空いたようなものの見取り図だ


「君たちには重量有輪鋤と車輪付き種まき器を作って欲しい。生憎僕は理論は知っているが細かい仕組みがわからないのでみんなの力を借りたい。」


重量有輪鋤とは中世ヨーロッパで使われた車輪付きの重い鋤のことだ。湿った土を耕すのに重宝され、小麦、大麦、休耕地と土地を三つに分割し、輪作を行う三圃制農法と相まって中世ヨーロッパを変容させたと言われるぐらい高い生産性を誇る。


車輪に穴が空いたようなものは種まき器の一種で、車輪を畝に添って転がすと車輪の穴から一つずつ種が落ちていく仕組みになっている。


都市や農具の設計図を書き始めた工兵連隊を尻目に、テントから出ると、マウロが話しかけてきた


「タンクレディ様お元気になられてようで安心いたしました」


「熱出してそんなに心配かけていたかな?」


「いえ一騎討ちに敗れてから、落ち込んでいるようでございましたから」


少し笑ってマウロに答えた


「もう負けないよ」


タンクレディの脳裏には、退屈だった日本での人生が思い浮かんでいた。平凡な性格、平凡な顔、平凡な能力、およそ日本人の平均を綺麗になぞるかのように生きてきたタンクレディにとって、まるでラノベの世界に転生したかのようなこの状況は、大変魅力的ではあった。




「伝令!」


革製の鎧を身に纏い、ダガーを腰につけた男がテントに飛び込んできた。格好から盗賊職の男だろう。全力で走ってきたらしく、肩で息をしている


「西南西、およそ10キロ地点で、原住民の攻撃を受けましたっ。十五名ほどが捕らえられています。」


「よし❗️いくぞ」


もうすぐあたりが暗くなる時間ではあったが、『待ってください』というマウロの声を振り切って、僕は勢いよくテントを飛び出した。


テント前の焚き火に当たっていたアミルカレに第一連隊率いてついてこいと命じて、西南西に歩き出す。


「海岸線から3キロほど入った地点で、いくつかのパーティーが囲まれて連れ去られました。中にはBランクパーティもいたのですが…」


Bランクパーティーとは冒険者ギルドにおいてBランクの冒険者が過半数を占めるパーティのことだ。ABCDEFGと冒険者のランクが分かれており、Cランクで一人前扱いされるこの世界で、Bランクパーティはオークやオーガといった危険度の高い魔物の討伐を依頼されるほどの実力を持つ


「ということは少なくともBかCランク相当の人間が相手側にいたということだな?」


「数もかなり揃っていました、しかし現場にいた連中によると、襲ってきたのは女ばかりだったとか」


「女ばかりだと?」


後ろからザッザッザという足音が聞こえてきた。アミルカレ率いる歩兵第一連隊が追いついてきたのだ。そのまま僕たちは夕日に向かって歩き始めた。



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