第二話 会議
2020年6月12日 今までの第二話から第六話までをこの第二話にまとめ直しました。内容は変わらないのでご安心ください
「せめて追放前に思い出せればな」
僕はは岬の前にたたずんでいた。岬にはある程度の土地があるが、それ以外は熱帯雨林に覆われていて、とてもではないが、人が暮らせそうにない。いや暮らすことはできるのだろうが、このままでは農業ができそうにないのだ
「チート能力はおろか、魔法も使えない、こんな世界ではお決まりのアイテムボックスですらないとは…そもそも肝心の神に出会った記憶すらないぞ」
いつまでも愚痴を言っても始まらないことはわかっている。1万人もの人間の命が肩にかかっているのだ。
1万人のうち今のところ最も信頼のおける兵士たちはまとめて軍団兵と呼ばれる。貧乏貴族や騎士、富裕な農民の土地を継げない次男三男を中心に集めた彼らは、通称をタンクレディの精鋭という、半島最強の名を欲しいままにした戦士たちだ、ただし最盛期には4万もいた彼らも、三年のも及ぶ連戦によって徐々にすり減り、今では6000人しかいない。守りを任せた街や砦ごと部隊が全滅したことも多く、連隊長や中隊長にも欠員が出るほどであった
次に多いのは冒険者たちで3000人ほどだ、彼らは一旗あげようとタンクレディ側についたのだが、肝心のタンクレディが敗北してしまい、罪を遅れて、タンクレディについてきたものたちだ。当然タンクレディへの忠誠心は皆無。コントロールすら難しい連中だ
さらにそのほかに貴族や騎士たち、行政官や執事、メイドを含めて一万にも達する。食を満たすだけでも一苦労だ。
「さて、ボーッとしててもお腹が空くだけだ。幹部たちを集めてくれ」
僕は傍にいたメイドに声をかけて、テントへと向かった。
「単刀直入に言おう、我々は五年、いや三年以内にシテ島とヴォラリア半島に帰還し、マルグレーテを追放、地位を取り戻す」
岬の上、急増の大テントの中でそう宣言した。目の前には多くの重臣たちが揃っている。
まず四人の男爵、騎士の代表20人、冒険者の代表20パーティ、それに執事とメイド長、少数の行政官、四人の軍団長に、38人の連隊長、159人の中隊長たちだ。本来ならおよそ200人で一個中隊を、5個中隊で一個連隊を、十個連隊で一個師団を編成するはずだが、長らく続く戦争によって欠員が目立っていた。
三年以内に帰還する。大テントの中には疑うような空気が流れた。普通に考えては無理である。女勇者マルグレーテの基盤はそれほど盤石に見えたし、今の僕の立場はそれほど危うかった。
中でも冒険者たちは他のものと違って僕への不満をあらわにする。もともと彼らにはタンクレディへの忠義というものは持ち合わせていない。ただ一旗あげようとタンクレディにつき、そして敗れ、マルグレーテを遅れて逃げてきただけである。
「そんなもん無理に決まってんだろ?そもそもいつ水平線に女勇者の艦隊が現れるか、わかったもんじゃねーぜ?俺たちの命も怪しいってのによう。」
冒険者たちのリーダー格、ジュリオが吠えると、他の冒険者も同調し始める。隣にいた男爵バローネたちも不安げな表情を浮かべ始めた。
僕は騒ぎ始めた冒険者たちを右手を上げて制すと、その場にいた全員が驚愕するようなことを言い放った
「マルグレーテの軍はここにはこない、いやこれない」
「どおいうこった?」
ジュリオはけげんそうな顔をして言った。疑問は当然だろう
「答える前に、内乱で一番の敵を言ってみよ」
「そりゃ女勇者だろう?」
「では最も手強かった的は?苦戦した戦場にはどの国の部隊がいた?」
ジュリオは首をひねりながら答えた。今やテントの中の視線は二人のやりとりを固唾を飲んで見守っていた。
「敵に雇われた冒険者なんかは手強かったぜ?後は魔王軍かな?魔法つかいだらけでよ、まあ詠唱し終わる前に弓矢をぶち込んでやればいいんだけど、回復魔術師ヒーラーがやたら多くて」
「インペラトール一族内部の敵対派閥とも闘ったであります。ゲリラが得意な連中でありました。王国軍も数だけは多かったであります」
第一連隊長のアミルカレが元気よく答えた。
「そうだ、後は傭兵団だな。みんなよく考えて答えて欲しい、今までにマルグレーテの郎党と戦ったものはいるか?いたとしたらそれはどこだ?」
「えーと、最後の一騎討ちのときはいたな、確か」
ジュリオが記憶を辿るようにして答えた。続いて軍団1の元気者が続く
「マルグレーテの本拠を攻めた際に城壁の上にいたであります。ただし、記憶に間違いがなければ、魔王軍や冒険者の方が遥かに多かったように感じられるであります」
「そういうことだ。マルグレーテの家は初代勇者以来政治の表舞台に立ったことがない、一族郎党が少ないのだ。我々が戦ったのは王国軍であり、帝国軍であり、魔王軍であり、敵対派閥の兵たちであったが、マルグレーテ直属の部隊は驚くほど少ない
今までは良かった、フォーア家という共通の敵がいたのだから。だがそのてきはもういない。すると何が起こるか、今まで共闘していたものたちが対立し始める」
「呼んだ理由ってなんだ?」
ジュリオが肩をすくめた。まだ不満はあるようだが、ひとまずさっきの話には納得したようだ。
「ここを僕らの拠点にしたい」
「それは厳しそうですぞ」
第四師団長マウロが低い声で唸った。なるほど一理ある。タンクレディたちが上陸したのはデコニア大陸の最北端、海岸ぞいまで熱帯雨林が茂り、一万を越す人間の居住には相応しくない
「一応この岬の近くは切り開きはしたが、人の気配が見えぬ。当然農地もなさそうじゃ。すると新たに農地を開拓せねばならぬが、木を切って、根を掘り起こして、耕して、タネを植えるとなると冬に間に合わぬ。持ってきた食料にも限りはあるしの」
「そこは考えてるよ。まずはこの岬から5キロ四方を焼き払う」
いきなり物騒な単語が出てきてテントの中はざわめいた。
「ごめんごめん。最初の二三年は焼畑農法で我慢するしかないってこと。5キロもあれば1万人分の陣営地と農地は確保できるでしょ?地面に埋まっている石っころや木の根は騎兵の馬を使う。この際仕方ないからね。」
その後もテキパキと指示を下した後は会議は解散となった。会議と言うより説明会に近かったが、多くの者の心のうちには、消え失せていたはずの希望が宿り始めていた
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