第3話 神樹 楓 3
紅葉が空気です……。
「それは、俺があまりに情けない姿をさらしたからか?」
楓に眼光を向けられたまま新藤が答える。
新藤の見当違いの答えに楓は、苛立ちを覚え喰ってかかる
「違います。シンドウセンパイはあいつらより強いはずなのに、無抵抗でいたからです。俺は力のある者があえて理不尽に屈するというのが嫌いなんです。」
「それは俺が最武達より弱い……。」
「違う!」
楓は言い訳を重ねようとする新藤の態度に増々苛立ちを覚え、新藤の言葉を遮る。
「あんたはあれだけ木刀で殴られたっていうのに、骨折はおろか、傷一つ負っちゃいない。」
新藤は楓に痛いところを突かれ動揺する。
「っ!それは、……あいつらが手加減したんだろ」
「俺を殴ってきたやつの一撃は、下手をすれば骨折どころじゃすまないものでしたよ。そんな奴らが手加減なんてするはずがない、それに……。」
このままではらちが明かないと思った楓は、新藤の実力を物理的に確かめるべく、突然新藤に向かって鋭い一撃を放つ、これは先程最武に放った一撃よりも鋭く重いものであった。
その一撃を新藤はいなした。
反応できず受けるわけでもなく、慌てて反応し防御したわけではない、楓の一撃に反応し防御してはいけないと判断した上でいなしたのだ
楓の突然の攻撃に驚きつつも、見事に攻撃を受けきった新藤は、楓の行動の真意が分からず思わず声を上げる。
「何をする!」
確信を得た楓は、構えを解き新藤に向かって口を開く
「今の反応が証拠です。今の一撃は防御してしまったら防御箇所に少なくないダメージを与える攻撃でした。それを見抜いたうえでいなすなんて常人・・・ましてや力加減のできない不良より弱い人ができるはずありません」
新藤は、(実力の確認のためにそこまでするか?)と思ったが、楓のあまりに真剣な表情に観念し答える。
「確かに俺は実力を隠していた……。あいつらの攻撃なぞ何十発受けようともケガをしない自信がある。だから無抵抗のままでいた。そうしていれば奴らもいずれ気が済んで立ち去っただろうしな。」
新藤のあまりにもなさけない答えに、楓は更に怒りを増し新藤を睨みつける。
「それじゃあ何の解決にもなっていないじゃないですか!」
新藤は楓の目を真剣に見つめ、自身の思いを口にする。
「それでも、誰も傷つかなくて済むならその方がいい。」
「は?」
新藤の思いがけない返答に楓は目を丸くする。
「だってそうだろ、お前みたいに反撃していたら相手が傷ついてしまう。俺は誰かが傷つくのは嫌だからな。」
新藤はそう言うと、楓に笑って見せる。
新藤のあまりにお人好しな考え方に楓は呆れ、先ほどまでの新藤に対する怒りは完全に消えていた。
「先輩お人良しすぎます。怒りを通り越して呆れました。」
思わず楓は失礼な物言いをするが、そんな楓の言葉などまったく気にしていない新藤は笑う、
「ああ、よく言われる。」
ここで楓に一つの疑問が浮んだ、じゃあこの人は何のために武術を修めているのか。楓はそのことが気になり新藤に質問する。
「質問ですけど、先輩は何のために武術を修めているのですか?」
新藤は楓の質問に「そんなこと決まってるじゃないか」と即答する。
「第一に自分の周りの人を守れる力が欲しいから、第二に自分自身を強くするため、力があれば抑止力にもなるからな。」
新藤の「抑止力になる」という言葉を聞いて、楓は喜んだ、それは楓自身が力のある者は理不尽な暴力を振るう者達に対する抑止力であるべきだと考えていたからだ。更に楓は、この新藤という自分と同じ考えを持つ男を強くしようと決心した。
「わかりました。俺、1年の神樹楓っていいます。入部希望なんですけど入部してもいいですか?」
思ってもみなかった入部希望者の出現に、新藤は満面の笑みで答える。
「応!俺は2年総合武術部主将新藤 剛、入部希望者は大歓迎だ!。これからよろしくな!」
「よろしくおねがいします。」
楓と新藤が握手を交わす。
そこに今まで、空気だった紅葉が二人の間に割って入ってきた。
「わ~た~し~を~忘れるな~!!」
握手を交わす新藤と楓を引きはがし、紅葉は新藤の前に立つ
「新藤先輩!!」
紅葉はものすごい剣幕で新藤に詰め寄り、新藤は勢いづいた紅葉に圧倒される。
「はい!」
「私、神木楓の双子の姉で紅葉っていいます。私も入部希望者です!っていうか入部します!いいですね!!」
「はい!!」
「それではよろしくお願いします!!」
紅葉が新藤に一礼する。新藤は紅葉に圧倒されたまま
「お願いします……。」
と返し、神木姉弟の総合武術部入部がここに決まった。
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双武学園の敷地は広大で校舎や武道場等が多く建てられており、その中には現在使用されていない空き教室等が多くある。
こういった場所は普段文化系の部やその他の学生が学習のために使用しているのだが、極一部の空き教室は素行不良者所謂不良のたまり場となっている。
ここはその極一部の教室、そこには先ほどまで総合武術部を襲撃した不良と一人の男子生徒がいた。
男子生徒は金髪で整った堀の深い顔立ちで高身長、一目で日ノ本人ではないことが分かる。
「……で、お前らは慌てて逃げ帰って来たと、」
教室の机上で座っている男子学生が総合武術部を襲撃した不良達を睨む、睨まれた不良達は男子生徒に対して、完全に恐怖し、委縮してしまっている。
「あ……あいつがいなければ、新藤を追い出して道場が手に入ったのに……あいつをどうにかしてくれよ」
委縮しきった不良の一人が、勇気を振り絞り男子生徒に懇願する。
懇願する不良達に男子生徒は「そんなんだからだよ」と呆れながらも続ける
「俺はあんなボロ道場、欲しくもないんだよ……、それに、お前らが新藤をどうこうできるとは思わねえけどな」
「え?」
「まあいい、その一年に興味が湧いた。明日にでも俺が一人で行ってくる。」
そう言って男子生徒は、空き教室を後にした。