第851話 死神クリーパー戦③
アレンをルキモネの触手から解放するため、仲間たちが連携して戦った。
結果、火の大精霊カカの超特大の火球でアレンごと燃やして脱出させることができた。
「はぁはぁ……」
「はぁはぁ……」
「天の恵みですわ!!」
キールの回復魔法では魔力まで回復しないため、魔力まで極限まで減らしたアレンとルークのために、ソフィーが全体力と全魔力を回復させる。
(ふう、助かった。死ぬかと思ったけど)
『魔力充当率85・6%まで充填されました』
『魔力充当率85・7%まで充填されました』
『魔力充当率85・8%まで充填されました』
ルキモネの触手から脱出できたアレンが時空管理システムに充当される魔力よりも大事なことがまだ解決していないことに気付く。
ゴゴゴゴッ
死神クリーパーは、先ほどよりもさらに神力を込め、フードの中の骸骨がいっそうに禍々しくなった。
「来るぞ!!」
圧倒的な素早さで再度襲い掛かってきた触手を避けて仲間たちの前に戻ってきたアレンが自らの剣を握り締める。
そのアレンの背後から巨躯のリオンが金の錫杖を握り締め、クリーパーに迫った。
『むん!!』
『魂無き獣も死ぬがよい!!』
『がは!?』
パアッ
(リオンが一撃とかもう無理なのでは!? 誰も壁役が務まらないぞ!!)
どれだけの力があるのかバフを受け、さらに不死属性で魔法にも物理にも強力な耐性を持つリオンにクリーパーを攻撃させる。
神A「蓋世天錫」を軽く躱されながらも大鎌の斬撃を受け、たった一撃で光る泡へと変わっていく。
『ふふ、いいね。君たちのその表情たまらないよ。ようやく勝ち目など最初からなかった底なしの絶望であることが分かってきたのかな?』
アレンたちの表情を見て勝利を確信したキュベルの笑みが止まらない。
「……何をしている。さっさと成すべきことを成せ」
『これは魔王様、失礼しました』
『失礼しました!!』
階段上にある玉座から様子を見る魔王ゼルディアスに睨まれ、キュベルとルキモネが返事をする。
『さて、まずは雑魚を一掃してと。クリーパー、いいね』
『儂に命令するな。だが、成すべきことがあるというのはそのとおりだな』
クリーパーが刃をアレンたちに向けられる。
ゴト
(ん? 何か音がしたか?)
ゴトゴトッ
ゴゴゴゴゴッ
(ん? 揺れた? こんな巨大な建物が? 地震じゃないよな……)
奥行きが1キロメートル以上ある巨大なこの広間が揺れたように感じた。
揺れが大きくなると、キュベルにルキモネが話しかける。
『申し訳ありません。……参謀キュベル様にご報告が漏れていることがあります』
『え? 何、この状況で? 大事な話かい』
『はい。至急報告が必要と思ったのですが……。この状況ですので報告が遅れました』
ゴオオオオオオオオン
「きゃ!?」
「おいおい、何が起きてんだ!!」
その時、これまで以上の衝撃がこの場にいる全ての者に襲い掛かった。
魔王城が大きく傾いた衝撃で床石に大きく亀裂が入り、ソフィーやドゴラが声を上げる。
「何事だ……。我が城を揺らす者がいるのか」
玉座に座る魔王すら倒れそうになり両手でひじ掛けを持ち、自らの体を支えた。
『いや、いいけど、早く報告してね。って、もしかしてこの揺れの原因を知っているとか?』
「……」
魔王が無言で様子を窺う中、キュベルとルキモネの会話が続く。
『人類の軍隊をせん滅するために派遣したガンディーラ改が全て破壊され、私の本体も強大な魔法によって滅殺されました。指揮系統の把握自体、既に難しく……』
『へ? え? 何言っているの? 完璧な作戦で戦力的に絶対負けないと集合知力のルキモネ君も言ったよね?』
『はい、1人の魔女によって制圧されました。恐らくですがこの衝撃も奴の攻撃だと思われます。ブレマンダ様が魔王城に施した強固な保護の結界、転移無効の保護結界が間もなく破壊されます』
『破壊? できるわけがないでしょう。魔王軍の中でも最も空間魔法に秀でたブレマンダが作った結界だよ』
(壊滅だと? この状況と関係があるのか? 魔女? え? もしかして……)
「魔女」だと「奴」だの言う者が誰なのかアレンの思考を巡らせていると、天井近くの壁が破壊され、そろそろ西の空に沈みかけた日の光が巨大な魔王城内に何者かが入ってくる。
ドゴゴゴオオオオオオンッ
「あら? やっと穴が開いたわね」
『あ、ああ、そうだな、セシル。だが、なんて魔力だ……。人の身でこれほどの魔力を扱うとは』
「お世辞はこの戦いが終わってからにしてくれないかしら」
沈みかけた西日を背に浴びて皆が一瞬分らなかったが、2人とも聞いたことある声だ。
6つの水晶を周囲に浮かべたセシルがメルスと共に魔王城の中に入ってくる。
「おお! セシルたちだ! じゃあ、向こうの戦場はもう大丈夫ってことか!!」
キールが声をセシルたちの到着に声を上げて喜んだ。
「僕とタムタムもいるよ!!」
『はい、戦況はかなり厳しいようです。全力で戦いましょう!!』
少し遅れてタムタムに乗るメルルが魔王城内に入ってくる。
巨大な魔王城内は全長100メートルのタムタムであっても余裕で行動可能だ。
全員の視線を集めて息を呑む中、ゆらゆらと、だが表情は堂々としたまま、まっすぐ玉座に魔王に向かって宙を浮き進む。
「あなたが魔王ね」
セシルは他の誰にも目をくれずに宙に浮いたまま、吊り目がちの深紅の瞳で玉座に座る魔王を睨みつけた。
「……いかにもだが、貴様は?」
誰も2人の会話を止めることもない状況で、魔王は玉座に肘置きに肘をついて興味なさそうにもセシルに返事する。
「私の名前はセシル=グランヴェル。あなたたちによって殺されし、我が兄ミハイの魂の安寧のために、あなたを倒しにやってきたわ。魔王ゼルディアス、覚悟しなさい」
「なるほど……。だが、少し頭が高いようだが?」
「あらそう?」
「セシル、避けろ! クリーパーに狙われているぞ!!」
クリーパーたちは攻撃のタイミングを計っていた。
セシル同様に宙に浮くクリーパーは音もなく移動速度を加速させ、巨大な大鎌をセシルの首に目掛けて全力で振るった。
アレンの声を上げてもとてもじゃないが間に合わない。
ザンッ
ガキャッ
(がきゃ!?)
空を切る音で広間を響かせた大鎌が振るわれる後、セシルの首元から想像できない甲高い音が響く。
それはとてつもない固い物質を剣などの鋭利な刃物を叩きつけた音だ。
『ば、馬鹿な! 我が大鎌で切れぬだと! なんだ? これは貴様の魔力か!!』
リオンを一撃で切り裂いたクリーパーの大鎌は、セシルが一瞬で発動した時空魔法「共有結合」に阻まれてしまった。
クリーパーの圧倒的な一撃とあって、膨大な魔力を込めた時空魔法「共有結合」によってできた障壁は無数のヒビを発生させてしまったが、セシルに刃を届かせることは出来なかった。
セシルを覆う数百万の魔力にクリーパーは絶句する。
「……いきなり、何すんのよ! 邪魔をしないで!! 次元断裂!!」
ザバッ
『ぐは!?』
セシルの右腕から一気に光り輝くレーザービームが伸び、クリーパーに向けて振るわれる。
あらゆる攻撃に耐性があり、圧倒的な耐久力を誇るクリーパーの漆黒のフードを切り裂き、吹き飛ばしていく。
『小癪な……。き、消えた』
「こっちよ!!」
セシルを覆う6つの水晶がクリーパーに真っすぐ襲い掛かり、さらに遠くへと吹き飛ばしてしまう。
『ぐひら!?』
吹き飛ばされた先で空中に浮くセシルを即座に補足しようと1秒に満たない一瞬の間に視線を向けたが、セシルは時空魔法「空間転移」を発動してクリーパーの背後に回り込んでいた。
神技に達した魔法の発動には、これまでの魔法に比べて2桁多い幾何学模様の文字列を構成させないといけない。
大魔導士の才能があっても何分も何十分も発動に時間が掛かることをセシルは、時空魔法「発動加速」が魔法発動を100倍速くする。
『まさか、こんなことが。儂はアマンテ様に仕える光魔八神将の一柱。こんな人間の小娘に一方的に負けることなど……』
『クリーパー! 魔法が!! いや、まさか、この魔法は。いけない、避けるんだよ!!』
セシルが吹き飛ばしたのは強力な魔法を使うためにアレンたちのいない場所だった。
既に詠唱に入ったセシルの杖から魔力が溢れ、効果範囲を指定されたクリーパーの周囲が歪んでいく。
「極性崩壊!!」
『ぐびょらああああああ!?』
絶叫するクリーパーが避けることも耐えることもできず、周囲の床も壁も消し飛んでいく。
魔王城の壁に巨大な穴が空き、古代魔法の強力な一撃に、クリーパーはひん死の重傷を負う。
「メルス、魔力が尽きてしまったわ。魔力の回復お願いね」
『あ、ああ……』
全ての魔法玉の魔力を消費し水晶が石の玉になったセシルが、メルスに天の恵みを催促する。
『……これは破壊神の力だね。本当に古代魔法を復活させたのか……。いや、復活させるなどあり得ない。それを使いこなせるとなるとなおさら』
キュベルがこの場に来て初めて道化の仮面の下で冷や汗を流した。
「キュベルよ。随分お粗末な計画だな。大丈夫なのか?」
『もちろんです、魔王様! ルキモネよ! 魔王様の計画を僕と達成させるのですよ』
『は!!』
『この死神である儂がこのような人間の一撃で……』
(おいおい、あれで死なないのか。流石上位神、不死身だな)
クリーパーはひん死のダメージを負ったのだが死んではいなかった。
全身に漆黒の神力をたぎらせ、損傷した自らの骨となった体を容易く修復していくことにアレンは絶句する。
『魔力充当率90・1%まで充填されました』
(よし、この状況ならルプトを救出できるぞ。だが、時空管理システムはとうとう90%超えてしまったか。ルプトを救い出すことを優先しよう)
古代魔法を扱えるようになったセシルを見て、アレンは勝機があると考える
『ルプトはあのよく分からない触手で絡まる時空管理システムの下に捕らえられている。セシルと俺とリオンでクリーパーの止めを刺す。残りは邪魔をするキュベルたちを一掃しつつルプトを救いだせ。あの触手はどこまでも伸びて俺たちの魔力を吸うぞ。気を付けろ!!』
後から来た者たちにも分かるように、アレンが仲間たちに指示を出した。
『ルプト、救い出すぞ』
双子の兄のメルスが全力でルプトを救出しようとする。
『ちょっと待って!? これは厳しいよ!!』
手を大げさに上げて制止しようとするキュベルに対して、メルスの斬撃が襲い掛かる。
だが、ルキモネの触手についた無数の目玉がカッと光、魔法を発動させた。
『魔法障壁』
『魔法障壁』
『魔法障壁』
「タムタム! グランレイザーだ!!」
「コンズ様!!」
「ポンズ!!」
後からやってきたメルルがタムタムに石板を使って、魔法障壁を破壊しようとする。
ソフィーとルークも2柱の精霊王の力を借りて、一緒になって攻撃を開始した。
『ああ、私の存在が消えていく……』
100以上あるルキモネの目玉が、魔法障壁の仲間たちに破壊されるたびに1つずつ消えていく。
ほかの仲間たちも一緒になって攻撃するからこれなら5分も掛けずに破壊できそうだ。
「……」
カツカツ
(ん? 魔王が降りてくるぞ。ま、まさか)
いつの間にか魔王が無言で玉座の目の前の階段を降りてきた。
ガシッ
そして、時空管理システムの中に魔王は手を突っ込み、意識が朦朧とするルプトを掴んだのであった。





