第846話 死神クリーパー戦②
アレンの全身をルキモネの触手が襲い掛かる。
無数の触手によってアレンの体は球状の塊の中に隠れてしまった。
ドクンドクン
まとまり球状になった触手の塊がアレンの魔力で淡く輝き出す。
「く!? これはまずいぞ!!」
アレンは魔導書を見るまでもなく自らの魔力が減っていく感覚があった。
体感だと魔力が毎秒数万減っていく感じがする。
魔王の間にいる間は秒間1000ほどだったが、どうやら触手に直接触れられると秒間最大魔力の1%以上吸われていくように思われる。
ドクンドクン
『魔力充当率52・3%まで充填されました』
ドクンドクン
『魔力充当率53・5%まで充填されました』
ドクンドクン
『魔力充当率54・9%まで充填されました』
『おお! 流石はアレン君だ! 凄い勢いで魔力が溜まっていくよ! ごりごり魔力を吸っていこう!!』
キュベルが小躍りするように喜んでいる。
『畏まりました、キュベル様』
時空管理システムに絡みつくルキモネがさらに触手をアレンの下に向かせる。
「霊斬剣・改!!」
ザンッ
シュルシュルッ
絡みつく触手をアレンは手に持った剣で容易く叩き切る。
だが、切ったそばから触手は再生し、新たにやってきた触手がアレンの腕に絡いて動きを制限していく。
(俺の魔力を吸って時空管理システムを起動させる気か! オキヨサンたちに持たせている天の恵みにも限りがあるぞ。これはまずい!!)
無数に伸びる触手がアレンを取り込み、絶対に離さないという意思を感じる。
3体の霊Aの召喚獣たちに天の恵みを渡しているのだが、数には限りがある。
このままでは何分もかからず、渡した天の恵みは尽きてしまいそうだ。
霊Aの召喚獣にだけ任せるのではなく、アレンは削られた魔力をペクタンの加護「生命循環」によっても、霊力から魔力へと流し込んでいるのだが、それもそんなにもちそうにない。
「アレン! 助けなきゃ!!」
「好き勝手させねえぜ!!」
絡みつく触手から助けようとクレナ、ドゴラ、シアの前衛の3人がアレンの下へと向かおうとする。
アレンが注意を引き付けたおかげで倒された十英獣やヘルミオスのパーティーのメンバーは棺桶袋に収納済みだ。
『……力の差は見せつけたつもりだがな。よく分からんが、あれの起動できるようになれば、儂の悲願が叶うのだろう、キュプラスよ』
『そだよ! だから邪魔させないでね。あと、僕の名前はキュベルだよ!』
『ふん。誰につけ直してもらった名前だか。では、黙って見ておれ、キュプラス』
だが、宙に浮く大鎌を握り締める死神クリーパーが、決してアレンの下へは近付けまいと、行く手を遮る。
『はは、なんてものを作ったんだ。厳しい戦いになりそうだ』
『そうなのかい。あたしはもう勝てそうにないんだけど』
ソフィーとルークと一緒についてきた精霊神ローゼンと精霊神ファーブルは絶句している。
この言葉に仲間たちに声が折れそうになるのをヘルミオスが阻止する。
「……僕も忘れないでね、皆でアレン君を助けよう」
仲間を殺されたヘルミオスは既に平静を取り戻しており、クレナたち3人と同様に最前線に立った。
「それでどうすんだ? 勇者」
ローゼンヘイムでの魔神レーゼル戦前にしごかれた出来事を根に持っているジャガイモ顔のドゴラが、横にいるヘルミオスにどうやって戦うのか確認する。
「ここは通常の方法では戦えないね。全力で行こう」
「当たり前だろ。どこが通常じゃない方法なんだ?」
「……」
『……』
クレナとシアが2人の会話を聞いている。
何か大事な会話のようだと感じ取ったようだ。
「そうだ。『アレン君が剣神に迫ったみたい』に全力でやろうって言っているんだ」
「……なんだ、そういうことか。ソフィー、ルーク。剣神と戦った時みたいに全力でこいつを倒すぞ!!」
「……ええ!!」
「おう、分かった!!」
剣神とアレンの戦いを見ていたソフィーもルークもなんとなくヘルミオスの作戦を分かったようだ。
『……作戦は決まったか。そして死ぬ覚悟もな。土塊どもよ。無に帰るがよい』
「いくぜ!! 奥義無鉄」
「奥義! 甲破斬!!」
『む!? これは!!』
先ほどソフィーの神技「精霊神の祝福」の掛け直しでクールタイムがリセットされた、ドゴラとヘルミオスが2人とも耐久力を無視した切断力の高い神技とスキルを選択した。
ガリガリッ
同時に2人同時に迫る斬撃を長い大鎌の柄の部分で受けた。
「く、くそ! 切れねえ!!」
『儂の神力を込めているのだ。そう簡単に切れるわけ無かろう。切り裂かれて死ね! 絶死鎌破!!』
2つの斬撃に当たったところで火花が散るが、ググっと力を込めると2人は容易く弾き飛ばされてしまった。
さらに、神力を込めていたクリーパーの、ドベルグを叩き切った漆黒の刃が2人に襲い掛かる。
「くそ、来たぞ!」
「お願いね!!」
ドゴラとヘルミオスは空中に飛ばされた状態で回避行動がとれない。
ドベルグの神聖オリハルコンの大剣と鎧を叩き切ったスキル「絶死鎌破」をまともに受ければ、即死は免れない。
「ええ、分かりましたわ! 空間の大精霊ジゲン様! お二人の守りを!!」
『うむ!!』
だが、作戦を共有していたソフィーが全魔力と全霊力をゴリゴリと込め、空間の大精霊ジゲンに力を借りる。
だが、
バキバキ
ソフィーが魔力と霊力合わせて100万近く消費して空間の大精霊に行使して貰ったのだが、ドゴラとヘルミオスの囲むように半透明の障壁を、クリーパーの漆黒の刃のスキルがゴリゴリと破壊していく。
「お、おい!?」
「オハバリ! 盾に!?」
「大丈夫ですか!?」
空間の大精霊が作った渾身の障壁は難なく破壊されたのだが、ドゴラは2本の神器で受け、ヘルミオスは神器オハバリを一瞬にして大盾に変えて身を守った。
後衛近くまで吹き飛ばされた2人にソフィーは心配の声を上げたが、それでも怪我は負ったものの無事であった。
今度はタイミングを読んでいたクレナとシアが飛び上がっていた。
『ぐる! 神風連撃爪!!』
「ここだ!! 因果天翔!!」
『波状攻撃か! たわけたことを!!』
スキル「絶死鎌破」を発動させた後の虚撃を突き、シアが神技「神風連撃爪」による無数の風の刃が一瞬にして襲い掛かる。
クリーパーが大鎌の柄の部分でシアの斬撃を受けていると、さらに、クレナが神技「因果天翔」を放った。
防御も攻撃も許さないクレナの抜群のタイミングの巨大な斬撃にクリーパーが吹き飛ばされる。
『ちょっと、クリーパー!?』
『いらぬ心配だ!!』
「援護はさせん! 疾風迅雷!!」
「銭投げだ!!」
フォルマールとペロムスもタイミングをずらし、クリーパーが反撃できないよう、援護射撃で加勢する。
「うし、出来たぜ! カカ! 準備はいいか!!」
『おう、行けるぜ! うりゃあああああああああ!!』
ルークはビキニアーマーの火の大精霊カカに対して全魔力と全霊力を込めていた。
そのカカが一気に巨大な火の玉になって突進した。
『狙いは! いけない!? ルキモネ君!!』
キュベルは誰を襲う分かり、ルキモネに触手の指示を出す。
『は!!』
ジュワッ
粘性のある全ての触手を燃やし尽くし向かった先はアレンを包み込む触手の塊だった。
ゴワワッ
ズオオオオオンッ
包み込まれたアレンごと火の塊となり、漆黒の煙が天井に向かって立ち込める。
「ゲホゲホッ、助かった!!」
「おう!!」
火だるまの中から焼け焦げた触手を引き離すアレンが出てきてルークに感謝を言う。
『魔力充当率85・4%まで充填されました』
『あらら、もうちょいで完全に魔力が充当できたのに残念だな。もう、クリーパー、あんまり手加減しないでよ。これじゃあ、上手くいくのもいかなくなるよ!!』
アレンから大量の魔力が吸われたのだが、85%を超える充当止まりとなり、キュベルは残念だと言う。
「手加減だと?」
「嘘だよね。全然魔王に辿り着けないんだけど……」
キュベルの言葉に吹き飛ばされた先から前衛の位置に戻ったドゴラもヘルミオスが絶句する。
アレンを救出し、怯んだ表情を打ち消すようにクリーパーはこれまで以上に、全身に漆黒の神力を巡らせた。
(なんだろう。まだ本気じゃなかったってことか? こんなにくそ強いのに……)
『……まだ、分かっていないようだな。殺されるだけしかできない土塊の分際で儂に叶う道理などないのだ』
まだ本気を出していないと言う死神クリーパーがゆっくりと床から浮き、メキメキとフードの下で骨だけの肉体を禍々しく動かし始めた。
ゴゴゴゴゴッ
『はは、これは勝てないと思うな』
『なんという神力なのさ。イースレイ様をはるかに超えているよ……』
一緒に着いてきた精霊神ローゼンと精霊神ファーブルはこの状況で勝てるはずがないと言う。
「……ふん、てこずりおって」
玉座に戻った魔王が絶望するアレンたちを静かに見つめるのであった。
***
アレンたちが、死神クリーパーに苦戦する中、魔王城のとある場所で不穏な動きがあった。
ここは、魔王城の2階層で勇者ヘルミオスが魔王軍総司令オルドーを倒した場所だ。
ヘルミオスの一撃によって、オルドーは袈裟懸けに半身を叩き切られたオルドーの上半身が、床に膝を着いた状態で固まっている。
カランッ
カランッ
頭部に生えた角が全て落ちると、上半身がゆっくりと漆黒のオーラのようなものに覆われる。
メキメキ
ゆっくりと上半身が浮いたかと思ったら下半身に漆黒のオーラが移っていく。
この漆黒のオーラは魔力でも霊力でもない。
純粋で膨大なまでの神力だ。
死神クリーパーの全身を覆っているものと同様の禍々しいものだった。
だが、本気を出したクリーパーよりも圧倒的に溢れ、天井にまで届きそうだ。
倒されたはずのオルドーは、下半身と接合し傷が完全に回復したオルドーは目を開き、ゆっくりと立ち上がる。
『ここはどこだ? 我は何をしていたのだ……』
寝ぼけているのか、自らが何なのかすら分からないようだ。
だが、自らが何をすべきかは魂に刻まれているので覚えていた。
『……アマンテ様、暗黒神アマンテ様の下へ戻らねば』
魔神オルドーはゆっくりとその場を後にしたのであった。
アレンが本気を出した死神クリーパーに苦戦する中、新たな絶望が蠢きだしたのであった。





