第816話 地上戦⑥ガンディーラ改(3)
メルスと超神合体ゴーレムによる強力な一撃を受け、ガンディーラ改は胸部を貫かれ、頭部が吹き飛ぶほどの一撃を受けた。
オリハルコンの体であっても25人のドワーフが神技「超神合体」によるゴーレムのステータスが上がった状態での一撃を耐えることは出来ない。
強力な一撃によって、ガンディーラ改は倒れているのだが、ダメージが大きく、腰をついたまま動けないようだ。
ズウウン
ズウウン
超神合体ゴーレムの両足役のドワーフたちが距離を詰めていく。
「油断するなよ! てめえら! 最後が肝心なんだからな!!」
頭役はザウレレ将軍など他に4人いるのだが、ガララ提督の声が特に駆動室に響き渡たる。
守りを任せられた左腕役の5人のドワーフたちはスキル「超光壁」を左腕に発動し、腕ほどの大きさのある光の盾を生成し、急な反撃に備える。
だが、この状況を看過できない者たちもいる。
『我らの攻撃の要がやられそうだぞ! 全軍前進でお守りするんだ!!』
『グルオオオオオオオオオオオオオ!!』
『グルオオオオオオオオオオオオオ!!』
『グルオオオオオオオオオオオオオ!!』
魔王軍の指揮官たちがガンディーラ改に止め刺させまいと攻撃の激しさを増すよう魔獣の軍勢に指示を出す。
ハクとマグラでブレスを使って、円形の陣地を作るように魔獣たちを焼き殺していく。
だが、焼け焦げた仲間を盾に必死に突進する魔獣たちに対して、包囲網はだんだん狭まってきた。
『急げ! すぐに止めを刺すんだ! 敵の攻撃が激しさを増したぞ!!』
情報収集、攻撃、防御、回復など、全てをこなすメルスが、敵陣の動きの変化に合わせ、押され始めたハクとマグラと一緒に魔獣たちを狩り始める。
魔王軍は魔獣と魔族合わせて300万体ほど現れたのだが、1割以上の魔獣を既に倒した。
『うん、分かった!!』
魔王軍の助力がない 超神合体ゴーレムの中のメルルが力強く答える。
だが、ガンディーラ改の駆動室の中にいる300体近くいる魔神や魔族たちは吹き飛ばされた衝撃で持ち場を離れてしまった者もいるが全員無事であった。
超神合体ゴーレムが放った陽電子砲用石板がもう少し下に決まれば、ガンディーラ改の駆動室を破壊できた。
十分接近し、超神合体ゴーレムが攻撃の間合いに入ると、5人の右腕役のドワーフたちが石板「パワーチャージ」で威力を増した石板「光収束剣」により、光の収束によって生じた巨大な剣を大きく振りかぶる。
『生体反応を捉えました! 胸部と腹部の間に無数の生体反応確認!!』
先ほどの陽電子砲用石板による攻撃でも、超神合体ゴーレムの中でタムタムは機能「サテライト」でガンディーラ改にいる魔神や魔族たちの居場所を探っていたのだが、何らかの「感知阻害」がかかっており、駆動室の場所を正確に探ることができなかった。
胸部を大きく破壊した結果、機能によるものなのか「感知阻害」の効果が消えたのか、メルルたちの前にあるスクリーンにガンディーラ改の中にいる魔神たちの居場所を表示させる。
「やあああああああ!!」
メルルたち右腕役が石板「光収束剣」を振り下ろすと、ガンディーラ改は片手で胸部と駆動室の攻撃を必死に止める。
だが、攻撃力が30万を超え、石板「パワーチャージ」により攻撃用石板の威力が増した石板「光収束剣」を止めることはできないようだ。
メルメリと受け止めた手を溶解させ、剣先が駆動室のある胸部へと迫る。
『どうした!? 胴体部門! 魔素吸収機構の稼働率を最大限にしろ! 体勢を立て直さなければやられるぞ!!』
『は! 速やかに最高出力で!!』
駆動室内で上位魔神の檄に胴体部門の魔神や魔族たちが大声で答える。
「ふぬぬぬぬ!!」
『んぐぐぐぐ!! 敵ゴーレムに強力な動力が生じているようです!?』
タムタムがメルルたちと一緒に超神合体ゴーレムを動かし駆動室に石板「光収束剣」に突き立てようとするが、迫る剣先の位置がぴたりと止まった。
『どうしたと言うのだ! 早く倒さないか!!』
メルスは早くガンディーラ改を倒せと大声で叫ぶ。
SランクやAランクといえども、魔王軍もバフをかけて攻撃しているため、四方八方から数百、数千と同時に受けると損傷は少ないわけではない。
「う、動かない! って、え? か、回復している!!」
駆動室内でメルルが叫んだのと、鳥Eの召喚獣がガンディーラ改の変化を捉える。
『なんだと!?』
『魔素吸収機構の稼働率100%を確認、全身の損傷部分を回復します!!』
メルルたち駆動室の中のスクリーン越しに驚異的な映像が映し出される。
天の恵みでアレンたちの四肢の欠損を回復させるように、巨大なオリハルコンがまるで生きているかのように、破壊された頭部がみるみる回復していく。
また貫かれてしまった胸部も完全に塞がり、これまで受けたダメージが完全に修復された。
『よし、両足部門は機体を起こせ! 両足部門は目の前の奴を蹴散らしてしまえ!!』
カッ
頭部が回復したガンディーラ改の目が光ったかと思ったら、超神合体ゴーレムが迫る光の剣を掴む右腕の力が増したようだ。
「うおおおおおお!! なんだああああああああああ!!」
光の剣を受け止めていた全長300メートルあるガンディーラ改が全長250メートルある超神合体ゴーレムを力づくで引っ張り上げ、体勢を崩させる。
そこへ、両足により蹴り上げを胴体にもろに受けてしまい、後方へと吹き飛ばされてしまう。
『大丈夫か!!』
『ギャウ!!』
メルスとハクの声が響く中、今度は魔獣を狩って出来た円形の広場の反対端へと吹き飛ばされてしまう。
「だ、大丈夫だ。こ、これは!!」
『あ、あれ? これはもしかして邪神教の戦いで見たことあるような……』
駆動室内の超神合体ゴーレムの視界を移すスクリーンは、蹴り上げられ吹き飛ばされた衝撃で一瞬歪んでいる。
だが、衝撃が収まる前から、メルルはガンディーラ改の両肩部分に映る映像を見て既視感があった。
ガンディーラ改の両肩は砲台が変形して上空に向けて煙突のようなものが付いている。
頭部を回復させたタイミングで両肩の煙突は煙ではなく、何か光の柱のように上空に伸びている。
「邪神の神殿で同じようものを僕、見たことあるよ!!」
「な、なんだとって、来るぞ! 左に避けろ!!」
全長300メートルとは思えない速度でガンディーラ改は、吹き飛ばされた先で立ち上がろうとする超神合体ゴーレムに対して距離を詰めてくる。
両足に着いたブースター機能がどれだけの推進力を生じているのか、数百メートルの距距離をあっという間だった。
「は、早すぎる!!」
両足役のドワーフたちが駆動室内で移動用石板「駆動車輪」により左側へ退避しようとするのだが引き離せない。
なんとか避けた先で、ガンディーラ改が勢いそのままにSランクやAランクの魔獣を捻り潰した様子がスクリーンに映し出される。
なんとか避けたのだが目の前にガンディーラ改がいる状況にメルルが機転を利かせる。
「ぼ、僕たちが!!」
目の前にいるということは距離が近く、今も右手握り締める光の剣の攻撃範囲内ということだ。
超神合体ゴーレムは石板「光収束剣」を使い、体勢をこちらに向けようとするガンディーラ改に切りかかる。
『防げ!!』
頭部部門の上位魔神が速やかに指示を出す。
「うりゃあああああ!!」
お互いの駆動室内で上位魔神とメルルの声が響き渡る。
左腕を掲げ超神合体ゴーレムの光の剣を何とか受けたのだが、メリメリと融解するようにガンディーラ改の左腕を切断しようとする。
メルルたち右腕部門はこのまま防御の要である左腕を切り落とし、そのまま駆動室のある胸部を破壊しようとしている。
だが、ガンディーラ改の駆動室内では、メルルたちへの攻撃へ対抗しようとしている。
『魔素吸収機構で辺り一帯に浮遊する魂の充填は十分です。左腕部門に吸収した魂の力を送ります!!』
カッ
ガンディーラ改の両目が光る。
「え? き、切れない!? ふぐうううううう!! か、回復している!? な、なんで!!」
駆動室内で必死に光の剣を動かすメルルたちに違和感がある。
左腕の3分の2ほどまで切りかかった光の剣は、切り口がピタリと止まった。
まるで押し返すように左腕を再生させていき、切りつけられダメージを受けている状況であるにもかかわらず、完全に回復させてみせる。
だが、それでもガンディーラ改の勢いは収まらない。
左腕に切りかかった光の剣はゆっくりと腕から離れていく。
ガンディーラ改の中で左腕部門の魔神や魔族たちがスキルを発動し、左腕に巨大な光の盾を作り始めた。
ブウウンッ
「ぬぐあああああ!?」
「うああああああ!?」
ガンディーラ改の巨大な左腕の盾を超神合体ゴーレムにぶつけ、後方へ吹き飛ばしてしまう。
メルスは状況を分析するため加勢することなく、様子を見ていた。
『……両肩の煙突から吸引する光の粒子が勢いを増している。これはもしや、邪神教の際、魔王軍がやっていた魂を吸収しているのか。ま、魔獣の魂を!? そのために攻めた魔獣たちを我らに殺させていたのか!!』
『私もその意見に賛同です』
超神合体ゴーレムに収まるタムタムがメルスの声に反応する。
邪神教との戦いの時には魂が入っていなかったタムタムは、戦いの記録が魔導盤の中に刻まれていたようだ。
「どういうこと? タムタム!!」
『魔王軍は恐らく、ギャリアット大陸で人々の魂を集め、邪神を復活させた方法を応用して、倒された魔獣たちの魂を使い、目の前の巨大ゴーレムの回復や強化に使っているようです』
「ば、馬鹿な。って、魔獣たちがこんな辺り一面いる状況で無視してこのデカブツだけに集中できるわけねえだろ!!」
駆動室内で響くタムタムの分析にガララ提督が驚愕する。
現在、ハクやマグラは魔獣たちが近付かないようブレスを使い、数千体も数万体も燃やし尽くしている。
消し炭にするのも理由があったのだが、その理由を考えると召喚獣となったメルスの頬に冷や汗が流れる。
「半端に倒せば邪神の化身となり、完全に倒しても目の前のデカブツの力に変換されるのか……」
ガララ提督の言葉に駆動室内で1人と1体を除いて敗色が濃くなっていく。
「……じゃあ、一気に叩かないといけないね。そうだよね、ディグラグニ!!」
このまま負けないと強い意志を持った目を輝かせメルルが言い切ったのであった。





